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社説・コラム

『論』 平和公園の全面禁煙化 受動喫煙を考える契機に

■論説委員・東海右佐衛門直柄

 平和記念公園が2018年春から「全面禁煙」になる。

 1954年に公園は完成し、今では国の名勝である。世界平和を祈念する地であると同時に、市民の憩いの場でもある公園の様子が少し変わるかもしれない。

 広島市はこれまで「分煙」を進めてきた。08年度に公園内に55基あった灰皿を少しずつ減らし、現在は灰皿3基と喫煙ブースが一つある。しかも、人目のつきにくい場所に置いている。条例施行を機に今後、それらは全て撤去され、屋外でも吸うことが許されなくなる。違反した場合は、千円の過料が徴収されるという。

 今回の条例改正は市側の提案ではない。市議会10会派のうち8会派の幹事長が連名で提案した。提案理由で指摘したのは、やはり平和記念公園が原爆死没者を慰霊する「聖地」である点だ。その上で外国人観光客や修学旅行生らが多く訪れることを挙げ、その受動喫煙を防ぐためには「全面禁煙とする必要がある」とうたった。

 「分煙で事足りる」との姿勢だった市側の背中を、議会側が押したともいえよう。賛同した市議は「多額の税を納めるたばこ業界に市は遠慮して分煙以上の策を取れずにいたのでは」とみている。

 ただ、これで公園の「禁煙化」が完全に実現するわけではない。実は「抜け道」があるのだ。

 その一つは国際会議場の喫煙所である。地下にある中庭から地上へ延びる外階段の踊り場にある。「屋内」との位置づけなので、屋外を対象とする条例の枠外だ。だが、この喫煙所は単に仕切りがあるだけで煙はほぼ100%地上へ流れ出る。屋外では禁煙化されるのに、地下1メートル足らずで野外に通じる喫煙所が野放しになるのは矛盾していよう。

 もう一つは平和記念公園南側のタクシー乗り場にある喫煙所だ。わずかに公園の敷地から外れており、「道路上」にあたる。訪れる人たちからすれば公園内に含まれているだろうが、もとより条例の対象から漏れる。

 市の側もこうした抜け道があることは認めている。公園に集う観光客の受動喫煙を防ぐ、というのが条例の趣旨であるなら、こうした喫煙場所もなくしていくのが筋ではないだろうか。

 また公園内から灰皿を撤去するだけでなく、公園外にガラスなどで完全に仕切られた喫煙所を設けることも検討してほしい。公園の近くで喫煙できる場所を設けることにより、公園内での隠れた喫煙や吸い殻のポイ捨てが抑えられる面もあるに違いない。

 今後の取り組みによっては、東京五輪に向けた日本の受動喫煙対策のモデルケースになり得るのではないか。

 先日、15年ぶりに改定された「たばこ白書」を見ても、屋内での喫煙の規制はもっと強めるべきだと考える。受動喫煙で肺がんになるリスクが高まると警告した。脳卒中や心筋梗塞などのほか、乳幼児突然死症候群などとの因果関係も指摘している。

 科学的にリスクが示されている以上、国として対策に本腰を入れ始めたのも当然だろう。病院や学校は敷地内を全面禁煙とし、ホテルや喫茶店なども屋内は原則禁煙とする方向で議論が進む。

 同時に、社会でどこまで喫煙を排除すべきかについては冷静な議論が要る。たばこは今なお約19%の成人が吸う嗜好(しこう)品である。他人に迷惑を掛けない環境で、本人がリスクを知って吸うことは今の社会では許容されるべきだろう。規制強化にも程度とバランスの視点が求められることを忘れてはなるまい。

 東京での五輪開催によって、おそらく広島への注目度も高まるだろう。禁煙意識が高い欧州などからの来訪者にも気持ち良く滞在してもらい、かつ足元の子どもたちに配慮した街づくりはいっそう必要になるはずだ。

 長崎市は既に09年、市条例で平和祈念像や原爆資料館などがある平和公園と周辺部を、喫煙禁止に指定している。そうした他都市の例も参考に、受動喫煙を防ぐ取り組みをさらに推進したい。

(2016年10月20日朝刊掲載)

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