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連載・特集

海上自衛隊呉音楽隊 創設60年 <上> 被災地で演奏 癒やし届ける専門集団

 海上自衛隊呉音楽隊が今月、創設60周年を迎えた。活動エリアの西日本を代表する音楽隊として名をはせる。呉市を拠点に地域に根差した活躍は、年代を問わずファンを引きつける。呉音楽隊のこれまでの活動を紹介する。(浜村満大)

 迷彩柄の陸上戦闘服でフルートやオーボエを奏でた。熊本地震の被災地に設営した天幕内に満ちる優しい音色。女性は涙を流し、子どもはメロディーをくちずさむ。余震の不安をしばし忘れた。

任務で入浴支援

 呉音楽隊の隊員5人は交代で4月24日~5月3日、災害派遣部隊として熊本県菊陽町に駆け付けた。華やかな演奏服を脱ぎ捨て、被災者の入浴支援の任務に追われた。

 音楽隊員は任務の合間を縫い、演奏会を開いた。ポップスやアニメソングなどを演奏した。「こんな時に演奏をしていいの。そうはじめは戸惑った」とフルート担当の川村理恵3等海曹(32)。初の災害派遣だった。

 その答えは、演奏で体を揺らす被災者の笑顔にあった。他の部隊から来た隊員からも感謝の言葉を掛けられた。音楽隊は異色の部隊。「音楽の力をあらためて確信できた」

練習と訓練両立

 ライフラインを寸断された過酷な現場で自立的に活動でき、癒やしの演奏を届けられる集団は、音楽隊をおいて他にない。日頃から演奏練習と訓練を両立。災害現場での作業や射撃などを鍛錬し、基地警備などの任務も負う。土のうも積める音楽家集団だ。

 創設60周年を迎え、野沢健二隊長(52)は「国民の理解を得られるよう真心を込めて演奏する。先輩が積み上げた伝統を継承し、さらなる発展を目指す」と誓う。「自衛隊と国民の懸け橋」。音楽隊員は課せられた役割に向き合い続ける。

海上自衛隊呉音楽隊
 1956年10月1日、呉補充部内に創設された。現在は20~50代の男女約40人が在籍。隊員の士気高揚や自衛隊の活動を紹介する広報などを任務としている。中国、四国、九州、近畿地方を活動エリアとし、海自隊内の式典や地域の行事などで演奏。年間の公演は約80回に上る。

(2016年10月23日朝刊掲載)

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