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連載・特集

海上自衛隊呉音楽隊 創設60年 <中> 荷台で移動 地道な演奏 理解広がる

 音楽好き約20人が集まり、1956年10月に海上自衛隊呉音楽隊の歩みは始まった。

たたき上げの隊

 楽器の経験者はほとんどいなかった。練習に加え、県内の公民館やパレードなどで本番を重ねて腕を磨いた。

 「楽器や予算が十分だったとは言えない時代。まさにたたき上げの隊だった」。創設当時の隊員伊佐治豊さん(84)=呉市上内神町=はそう振り返る。

 楽器と一緒にトラックの荷台で移動することも珍しくなかった。未舗装の道路を何時間も走って、土ぼこりまみれになった。よその部隊の隊員から「うるさい」と苦情を言われ、練習場所を追われた経験もある。

 伊佐治さんにとって一番の思い出は64年の東京五輪。東京音楽隊を中心に編成された部隊に呉音楽隊から伊佐治さんを含む数人が参加して開会式などで演奏した。「音楽隊だからこそ体験できた」と話す。70年の大阪万博や遠洋航海で寄った海外の港でも演奏した。

「帰れ」と罵声も

 かつては自衛隊への風当たりが強かった。70年代に広島市中心部をパレードした際は「帰れ」「平和都市を歩くな」と罵声を浴びせられ、ヘルメットを投げつけられた。

 だが、阪神大震災など災害救助現場での自衛隊の活躍や音楽隊の地道な演奏などで理解は広がってきたという。演奏会場に応じてアニメソングを交えたり、練習風景を公開したりと工夫も凝らす。

 創設60周年の記念式典で、池太郎呉地方総監は「演奏を通じて輝かしい歴史と実績を築き上げた。音楽隊の任務の重要性はこれからも変わらない」と訓示。式典に出席した初代隊員の正木松雄さん(79)=呉市焼山宮ケ迫=は「日本を代表するバンドになってほしい」とエールを送った。(浜村満大)

(2016年10月24日朝刊掲載)

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