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社説・コラム

天風録 「三笠宮さまと戦争」

 終戦70年の昨年に公開された映画「日本のいちばん長い日」は骨太な力作だった。日本の無条件降伏までの内幕を陸軍大臣の阿南惟幾(あなみこれちか)を軸に描くが、省かれた史実もある。玉音放送3日前、阿南が三笠宮さまに会ったことだ▲殿下は陸軍に身を置いていた。和平を望む昭和天皇を、徹底抗戦へ翻意させてほしいと願う阿南を強く叱責する。その逝去は昭和史の舞台で重い役割を果たした証人を失うことでもある▲軍部不信は参謀として赴いた中国で「聖戦」の名の下の残虐行為を見聞きして芽生えたようだ。平和な日本でオリエント研究の一方、戦争への反省を口にした。戦後40年近くになっても「今もなお良心の呵責(かしゃく)にたえない」と著書で吐露している▲専門分野を超え、国内の遺跡にも足を運んだ。発掘の竹べらを自ら手にしたこともある。国民と一緒に、偽りのない歴史を今度こそ残したい。そんな願いに貫かれていたのかもしれない▲歴史研究はおのずと戦乱と向き合う。平和とは戦争の休止期間―。最後の著書では厳しい見方を示し、「その平和の期間を1年でも長く保つように、最大の努力を尽くさねばならない」と力を込めた。重い言葉を今こそかみしめたい。

(2016年10月28日朝刊掲載)

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