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社説・コラム

社説 核兵器禁止条約 交渉へ 被爆国の役割を果たせ

 核兵器の使用がもたらす破滅的な結末を深く懸念する―。国連総会の第1委員会で採択された文言を全ての国が真剣に受け止めるべきではないか。

 賛成が123カ国、反対38カ国、棄権が16カ国。「核兵器禁止条約」の制定に向け、2017年に交渉を始めるよう定める決議案の採決結果である。核兵器の非合法化への一歩であり、広島と長崎で始まった核時代の転機となり得る。

重いドア開いた

 核保有国がことごとく賛同に回らず、条約交渉にも現時点では加わりそうにない。このままでは条約ができたとしても実効性なき「絵に描いた餅」になりかねないのは確かだろう。

 しかし私たちは悲観していない。長く開かなかった廃絶への重いドアが国連という場でようやく開いたことには変わりないからだ。過去には地雷禁止条約のように、保有大国が加わらなくても有志国や非政府組織(NGO)の主導で制定し、国際的な世論を喚起することで、批准の輪を広げていったケースもある。新たな運動のうねりを巻き起こす好機と捉えたい。

 世界中にはいまだ約1万5千発の核兵器が存在する。この採択の原動力となったのは、保有国が主導する核軍縮が遅々として進まないことへの国際社会の怒りやいらだちである。

 15年に開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議では禁止条約を念頭に核兵器の非合法化も論じられたが米国をはじめ保有国の反対で決裂してしまう。オーストリアやメキシコなど有志国がNPTとは別の枠組みでの行動に立ち上がり、ついに条約の交渉入りにつながった。

 その共通認識は核兵器の非人道性であり、戦後、被爆者が訴え続けた強い願いを踏まえていよう。惨禍を二度と人類が体験してはならない、と。

「反対」には失望

 それだけに唯一の戦争被爆国をうたう日本が反対に回ったことに強く失望した。保有国と非保有国の亀裂が深まることを避ける―。それが政府の言い分だが米国の顔色をうかがい、その圧力に屈したのは間違いない。危機感を強める米国が同盟国に反対と交渉の不参加を強く求める書簡を配っていたからだ。

 せめて賛同はしないとしても棄権という選択肢もあったはずだ。このありさまでは被爆者はもちろんのこと、核廃絶を願い続ける多くの国民をないがしろにしたと言わざるを得ない。

 一方、日本が主導する核兵器廃絶決議案も第1委員会で23年連続で採択され、こちらは米国も賛同した。禁止こそうたってはいないが核兵器使用による非人道的な結末に「深い懸念」を表明している。趣旨からいえば日米の姿勢は矛盾している。

抑止力は幻想だ

 今年5月、オバマ米大統領は初めて訪れた被爆地広島で核兵器廃絶への道を諦めないことを誓った。同行した安倍晋三首相も廃絶を口にした。その意義が色あせて見える。しょせん米国の本音は核戦力の維持であり、日本は核抑止力という「幻想」に安易に依存している現状を浮き彫りにしたといえよう。

 もちろん核兵器廃絶を論じる上で安全保障環境は切り離せまい。東アジアでは保有国の中国に加え、北朝鮮が核実験とミサイル開発を続ける。だが力には力という発想で核で脅し合うのは冷戦時代の遺物でしかない。広島と長崎で何が起きたかを考えれば、現実には核兵器など使えまい。日本は禁止条約への動きを米国の「核の傘」を脱する契機となすべきである。

 国連総会での議決を経て、まずは来年3月にニューヨークで交渉が始まる。具体的な内容はまだ見えないが、核の使用など根幹的な部分に限定した条約を目指す可能性もある。

 岸田文雄外相はきのう交渉には参加する意向を示した。その真意をいぶかりたくなる面もあるが、少なくとも米国の代弁者として足を引っ張るようなことがあってはならない。保有国を議論に巻き込み、一日も早い廃絶に確実につなげる条約になるよう被爆国としての役割を今度こそ果たしてほしい。

(2016年10月29日朝刊掲載)

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