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アートがつなぐ島の内外 瀬戸内国際芸術祭 秋会期 歴史や景観映す意欲作

 3年に1度、岡山、香川両県の島々を舞台に開かれている現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」。3回目となる今年、春、夏に続く秋会期(11月6日まで)の会場を訪ねた。国内外のアーティストがそれぞれに島の「記憶」と向き合い、希望を託した意欲作と出合った。(森田裕美)

 秋から新たに会場となった香川県の4島を船で巡った。高見島(多度津町)では、広島ゆかりの作家の新作が見られる。過疎で廃校となった小・中学校の旧校舎を覆う巨大な横断幕は、広島県北広島町を拠点にする後藤靖香の作品「覚悟のイロハ」だ。

 祖父の戦争体験をはじめ、先人の記憶や歩みを入念に取材し、劇画風のタッチの墨絵で表現する後藤。今回は、幕末に太平洋を横断した「咸臨丸」に乗り込んだ島出身の4人の船員に着目した。

 描いたのは、嵐の中、決死の形相でマストによじ登って帆をたたむさま。過酷な航海に挑んだ先人の覚悟を迫力たっぷりに仕上げた。幅約50メートル、高さ約6メートルもある布の裾が潮風を受け、はためく。「廃校の寂しさを覆いながら、島を応援するフラッグの意味も込めた」と話す。

 塩を用いたインスタレーションで知られる尾道市出身の山本基(金沢市)は、かつて渡米して財をなした一家が暮らしたという民家の2階に、「たゆたう庭」を発表している。

 床に精製塩で描かれた文様は、島を取り巻く潮流や、浮かんでは消えるうたかたを思わせる。古い家具やトランク、セピア色の写真がそのまま残された室内。諸行無常を伝える。

 塩飽(しわく)諸島の中心として栄えた本島(ほんじま)(丸亀市)にも、歴史や景観を生かした作品が点在。五十嵐靖晃「そらあみ<島巡り>」は、周囲の島々の住民と編み上げた幅90メートルものカラフルな漁網が、ビーチに新しい風景を生んでいる。

 日本初の海員養成学校があった粟島(三豊市)では、モロッコ出身のムニール・ファトゥミ「過ぎ去った子供達の歌」が印象深い。閉校した小学校舎と校庭全体を使い、残る銅像やかつての校歌を生かして子どもの未来を考えさせる物語を紡いだ。

 伊吹島(観音寺市)には、島の特産品であるイリコを干す際に使うせいろを重ねた、巨大なパラボナアンテナが出現した。フィリピン人のアーティスト夫妻、アルフレド&イザベル・アキリザンの作。アンテナの中央には穴があり、来場者は登って顔を出せる。それを写真に収め、インターネットなどで発信してもらう行為までが一連のアートだ。

 秋会期の作品は11島と高松港、宇野港(玉野市)に186点。全体では34カ国・地域の226組が参加した。難解と思われがちな現代アートが、島の内と外、過去と未来を、緩やかにつないでいる。同県と福武財団などでつくる実行委員会の主催。=敬称略

(2016年10月29日朝刊掲載)

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