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社説・コラム

社説 自民総裁の任期延長 党内チェック働くのか

 安倍晋三首相は、ご満悦ではないだろうか。口に出さなくても、周りが長期政権への地ならしをしてくれるからだ。

 自民党は、党則で連続「2期6年まで」と制限している総裁任期を「3期9年まで」に延ばすことを決めた。安倍氏は今夏の参院選で圧勝し、党内基盤を固めている。2018年9月で2期目の任期満了を迎えるが、その座を脅かす相手は見当たらない。3選すれば20年東京五輪のホスト役も視野に入る。

 現行憲法の施行後、日本では31人が首相を務めた。同じ期間に米国では12人が大統領を担った。日本のリーダーは短命過ぎるとの見方もあろう。

 任期延長を説く側は、政治課題に腰を据えて取り組めるメリットを挙げる。とりわけ外交は時間をかけて築いた信頼関係が大切であるに違いない。

 安倍外交はどうだろう。歴史認識を巡って中韓との溝を広げた時期もあるが、ロシアのプーチン大統領とは北方領土問題で膝詰め交渉ができる間柄である。ただ、同盟国の米国は近く、大統領が代わる。在日米軍基地の整理・縮小など懸案が今後どうなるかは見通せない。

 一方で政権が代わり映えしない弊害もあろう。国会議員の中から首相を選ぶ議院内閣制の下では必ずしも民意と一致しない。安全保障関連法を強行採決するような姿勢のままなら「独裁」との批判も免れまい。

 安倍氏が3期目を全うすれば、通算の首相在職日数が戦後最長だった佐藤栄作元首相の2798日を抜く。自民党が総裁の多選制限を定めたのは、その佐藤政権のマンネリ化に歯止めをかけた格好だった。

 国民の受け止めが肝要だろう。長期政権への不安を如実に示す数字がある。

 共同通信が29、30両日に行った世論調査では、内閣支持率が53・9%を維持する一方で、安倍氏の任期延長は「しない方がいい」が51・8%を占めた。「(延長)した方がいい」は38・8%にとどまっている。

 党・政治制度改革実行本部が年内決着を見込んでいた議論は約1カ月でスピード決着した。二階俊博幹事長らが早々と任期延長の流れをつくり、ポスト安倍と目される岸田文雄外相や石破茂元幹事長らの反発を封じた。取りまとめ文書には「将来の期数制限の撤廃も視野に」とも付記。安倍氏の4選以上が持ち上がっても不思議ではない。

 自民党はかつて、派閥間で権力闘争を続けた。政争の半面、中選挙区時代の議員は世論に敏感で、時に党内の「政権交代」で批判をかわすしたたかさもあった。今は閣僚ポストや選挙の公認権を握られ、チェック機能が衰えた感が強い。

 ふがいない野党のせいもあろう。共闘路線を打ち出す一方で原子力政策などを巡り、足並みの乱れが拭えない。野党第1党の民進党は路線対立がくすぶる。消費増税先送りなどで将来世代への付け回しを放置する、安倍政権の財政運営に鋭く切り込む迫力が必要ではないか。

 安倍氏が意欲を見せ続ける憲法改正については、8~9月の世論調査で、安倍政権下の改憲には過半数の国民が反対している。9条改正への警戒感もあるとみられる。幅広い意見をくみ取り、批判にも真摯(しんし)に向き合う姿勢を強く求めたい。

(2016年10月31日朝刊掲載)

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