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連載・特集

オバマ氏訪問・被爆証言学ぶ 「学ぼうヒロシマ」活用

 中国新聞社が毎年制作・配布している中学・高校生向け平和学習新聞「学ぼうヒロシマ」が、各校で活用されている。原爆被害の概要や放射線による影響などを知り、被爆証言を読むだけではなく、それらを自らの言葉や絵で表現することで理解を深める生徒たち。今年は特に、現職の米国大統領として初めてオバマ氏が被爆地広島への歴史的訪問を果たした。どんな未来を創っていくのか。あらためて考えるきっかけにもなっている。

三次・甲奴中

慰霊碑巡り 地図に記す

 平和記念公園(広島市中区)を9月上旬に訪れた甲奴中(三次市)1年18人は、訪問を前に授業で「学ぼうヒロシマ」を読み、印象に残った被爆証言などをしおりに書き留めた。その内容などを踏まえて当日、被爆者の体験を聞き取ったり、公園内の慰霊碑を巡ったりした。

 証言を英訳したページを参考に、外国人旅行者に話し掛けて平和への思いを尋ねた生徒も。吉浪徳香校長(53)は「活字になった証言を通して被爆の実像を事前に理解したので、平和記念公園での学習がより深まった」と話す。

 生徒のうち5人は今月下旬、公園内に点在する慰霊碑などを書き込んだ地図を作った。模造紙に慰霊碑の写真を貼り付け、「学ぼうヒロシマ」を見ながら解説を記入。29日の文化祭で、平和学習の成果として発表した。下井陸人さん(13)は「行く前に勉強したので慰霊碑の意味がよく分かった。証言では、次世代に記憶を受け継いでほしいという被爆者の思いが心に残った」と話していた。

 同中は3年前から「学ぼうヒロシマ」を活用するなど、平和学習に力を入れている。今年は平和記念公園訪問のほか、オバマ米大統領が広島を訪問した5月27日の翌28日の新聞に掲載された大統領のスピーチ要旨を、3年22人が読み、訪問の意義をそれぞれ考えた。吉浪校長は「生徒たちには良質な情報を基に、自分なりの平和への考えを深めてほしい」と願っている。

広島なぎさ中高

被爆者の体験 祈りの影絵に

 毎年8月5、6両日の夕方から夜にかけて、平和記念公園に近い元安橋東詰で開かれる「小さな祈りの影絵展」。広島なぎさ中・高(佐伯区)の国際部は、「学ぼうヒロシマ」に掲載されていた被爆者の体験記を基に、影絵を制作した。

 12回目を迎えた影絵展。今年のテーマは「つなぐ」で、被爆者の今と昔をつなぐ作品を市内の幼稚園や中高、大学が作った。広島なぎさ中・高の国際部のメンバーたち14人が当時と今をイメージしやすい、として選んだのは、井上喬夫さんと松本秀子さん。被爆前と現在の日常をB4サイズ1枚ずつの影絵に切り取るとともに、日英二つの言語で作品の説明文を掲載した。

 松本さんの「被爆前」は弁当を持って友達と集う姿を、「今」としてはコーラスを楽しむ場面を切り取った。初めて影絵を作った高校2年長谷川晃一さん(17)は「今の幸せを描こうと、背景を虹色にして、音符を描いた」と話す。

 影絵展を催した2日間、同公園を訪れた多くの人が足を止め、生徒たちの説明に聞き入り、丁寧に仕上げた作品を見つめた。部長の同木下加渚さん(17)は「平和を願って集まった独特のムードが漂う会場で『きれい』『すごい』と言ってもらえた」と満足そう。

 顧問の吉井充代教諭(39)は「文章から情景を描き、日英で要約するとなると、しっかり読み込むようになる」と効果を話す。

 作品は11月上旬~12月下旬に同校事務室前に飾られる予定。来年に向け、副部長の高校1年風呂中里菜さん(16)は「見ただけで平和を感じられるような影絵を作って喜んでもらいたい」と張り切っている。

福山・盈進中高

歴史的演説考える

 盈進中高(福山市)のヒューマンライツ部は今月1、2日の文化祭で、オバマ米大統領が平和記念公園で演説する姿を描いた絵を展示した。聴衆として招かれた同部の高校2年作原愛理さん(17)がオバマ氏に宛てた手紙の一部も紹介。文化祭の後も中学校舎の入り口に張り、生徒や来校者に歴史的な訪問について考える機会を提供している。

 絵は縦約1・5メートル、横約2メートル。同部の中学3年5人が約2週間かけて作った。新聞に掲載された写真を参考にしたが、「犠牲者の鎮魂を願いたい」と部員で話し合い、写真にはなかった原爆慰霊碑と白いハトを描き加えた。

 オバマ氏来訪で高まった原爆被害への関心を継続して持ってもらおうと、絵や新聞の切り抜きを廊下に張り続けている。作成した塩出心愛(ここあ)さん(14)は「見た生徒が、原爆や演説について家族とも話してもらえれば」と願う。

 作原さんは、オバマ氏の広島訪問前の5月18日、英文の手紙をホワイトハウスに送った。文化祭では、便箋8枚分の手紙の内容を抜粋して紹介。「被爆者の話は迫力があり、本や新聞のどんなものよりも、核兵器の恐ろしさを伝えます」と来訪を訴える内容で、被爆者の平均年齢が80歳を超え時間がないとも伝えた。

 文化祭では、展示の写真を撮り、立ち止まって読む人も多かったという。作原さんは「広島訪問は世界の人々が原爆に注目するきっかけになった。被爆地に来る人が増え続けてほしい」と力を込める。

 同部は7月の全校集会で被爆者の体験を伝え、核兵器廃絶を求める署名への賛同を訴えるなどの活動をしている。展示を見た同中3年の中島せかいさん(14)は「ちゃんと原爆のことを覚えておかないといけないと実感する」と話していた。

呉・仁方中

「なぜ原爆」 調べて発表

 「なぜ、広島と長崎に原爆は落とされたのでしょうか」。仁方中(呉市)1年の谷本雄さん(13)が、仁方小3年35人に問い掛けた。

 同中で開かれた両校の交流活動。仁方中1年46人が、平和や古里について調べた成果を発表した。谷本さんの班5人のテーマは原爆。広島には軍事施設が多くあり標的になった▽爆心地の地面の温度は3千~4千度―。「学ぼうヒロシマ」で知った事実を基に、調べた内容を紹介した。

 谷本さんは「原爆が落とされた後の惨状や被爆者の気持ちを知ってショックだった。僕たちも伝えたいと思った」と、テーマに選んだ理由を話す。

 同中は7、8月、「呉と戦争について知る」という計5回の総合的な学習で、プロローグとして「学ぼうヒロシマ」を活用。基礎知識などを問うチャレンジ問題にも挑戦した。戦没者の慰霊碑がある長迫公園(旧海軍墓地)や戦艦大和の資料を紹介する大和ミュージアムなど呉市内を巡った。

 調べ学習にとどまらず、成果を発表するまで学習を深めた。今月15日には校内の文化祭で、選抜された生徒が成果発表をスピーチ。指導する釜山郁美教諭(60)は「被爆者や戦争体験者が減る中、記憶を伝えていく人材に育ってほしい」と狙いを説明する。

 「被爆者の体験を後の世代へ」と題して発表した本田暖萌(のえ)さん(13)も、戦争について聞ける人は身近にいなかった。「学ぼうヒロシマ」を通して、家族を失った被爆者の心情や後障害の苦しみを知った。「1発の爆弾で全て焼き尽くされた。もっと被爆者の気持ちを知りたい」と話す。

 これまでの学習が、伝承者としての自覚の芽生えにつながってほしい―。そう釜山教諭は願っている。

広島・瀬野川中

「学ぼうヒロシマ」活用し紙芝居作り

 平和記念公園の上空を飛ぶ青い鳥、「Family」の文字を包み込むハート、青い地球の上に描かれた原爆ドーム…。瀬野川中(安芸区)の3年生たちは、紙芝居の一枚として「平和メッセージ」の絵を思い思いに描き色鉛筆で彩っていった。

 言語・数理運用科の授業の一こま。「学ぼうヒロシマ」に日英両語で載っている熊野巧さんと松尾清子さんの被爆証言記事を読み、6枚の紙芝居の構成を考える取り組みをしている。

 紙面を読んで絵に表現するうち、「平和メッセージ」は最後の6枚目。絵だけではなく文章もそれぞれが考える。熊野さんの記事を基に虹の上を鶴が飛ぶ絵を描いた伊勢村晴子さん(14)は「体験が具体的に書いてあり、情景がイメージできる。被爆者の思いを次に伝えていこうという気持ちを絵に込めた」と話す。

 担当する角崎祐美教諭(55)は「紙芝居にすることで、文字になっていない服装など当時の様子を含めて深く考えられるようになる。目に見えない『平和』を形にすることで理解も深まる」と狙いを説明する。英語の指導もしている角崎教諭。年末から年明けにかけ、2人の体験記の英文を読ませる予定にしている。

「学ぼうヒロシマ」とは

 「学ぼうヒロシマ」は、核兵器廃絶と平和を訴えてきた被爆地広島の願いを若者に受け継いでほしいと中国新聞社が2013年から毎年、広島国際文化財団の協賛を得て制作している。

 中学・高校生用ともタブロイド判でカラー24ページ。被爆証言を聞く本紙の連載「記憶を受け継ぐ」10人分の記事を柱に、取材した中国新聞ジュニアライターの感想も掲載。証言の一部は英文も載せている。

 広島県内の全中学・高校と、山口県東部10市町の国公立中学校に、販売所を通じて生徒の人数分届けた。

 この特集は、二井理江、見田崇志、城戸良彰、高本友子が担当しました。

(2016年10月31日朝刊掲載)

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