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社説・コラム

社説 朴政権の危機 外交に落とす影 深刻だ

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が窮地に追い込まれた。国政運営を巡る疑惑が相次いで浮上し、政権基盤がぐらついている。長引く混乱が、北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威が高まる北東アジアの安全保障や日韓関係に影響を与えないか、懸念される。

 疑惑の発端は、大統領と40年来の友人である民間人女性との不透明な関係である。大統領府の重要な内部文書を渡し、国政に関与させた疑いが表面化。女性には、大統領との親交をかさに着て、財界から集めた資金を流用した嫌疑もかかっている。

 流出文書には、北朝鮮との非公開接触や対日外交の資料なども含まれていたというから、あきれ果てる。

 問題の女性は、朴大統領の母親が凶弾に倒れた際に心の支えになった宗教家の娘とされる。その後、父親の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領まで暗殺され、深い孤独感にさいなまれた槿恵氏に親子で寄り添ってきたという。

 大統領は、演説原稿作りなどで助言を受けたと疑惑の一部を認め、国民に謝罪した。しかし、文書の漏えいは国家機密の保持に関わる重大な問題にほかならない。検察当局も、女性や大統領府の前秘書官らに対する集中捜査に乗り出した。最高権力者の絡む疑惑にメスを入れることは当然である。

 問題の女性はまた、政権中枢の人事にも関与したともされる。朴政権の閉鎖的な「密室政治」に対する批判は以前から根強くあった。女性の意見がどのように反映されたのかは不明だが、事実とすれば、韓国が築いてきた民主政治の基盤を揺るがしかねない。

 だからこそ、国民の反発も大きいのだろう。大統領の退陣を求める首都ソウルでの抗議集会には2万人余りの市民が集まった。支持率が10%を割り込んだとする調査さえある。

 野党は来年末の次期大統領選も見据え、政権に揺さぶりをかけている。加えて足元の与党からも、捜査の強化を求める声が上がっている。

 朴大統領はおととい、野党に近い人物を首相に据える内閣改造に踏み切った。内政は内閣と国会に任せ、自らは外交と国防を担う「挙国中立内閣」を狙った。ところが、根回しなしの一方的な人事で、野党の反発に油を注いだ。事態収拾は当分、おぼつかないだろう。

 韓国国会は現在、野党が過半数を占めている。1年4カ月の任期を残す朴大統領がレームダック(死に体)化すれば、外交にも影を落とすのは火を見るより明らかである。

 北朝鮮の軍事的な脅威に対し、朴政権は日米との連携を強めてきた。米国との間で高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国内への配備を決め、日本とも軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の年内締結を目指している。いずれも国内に反対論を抱え、一層難しい調整を強いられるのは間違いない。

 12月には日中韓首脳会談を日本で持つ方向で調整中だった。混乱が続けば、朴大統領にとって就任以来初となる来日が危ぶまれよう。慰安婦問題も昨年末の日本との合意に基づき、着実に進展させる責務があることは言うまでもない。

 大統領自らが真相を明かすことなしには「挙国」どころか、早期の収拾は遠い。

(2016年11月4日朝刊掲載)

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