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中国新聞「読者と報道委員会」第44回会合 詳報 オバマ氏訪問 多面的発信

 中国新聞の報道の在り方について社外の有識者と考える「読者と報道委員会」の第44回会合が10月27日、広島市中区の中国新聞ビルであった。5月のオバマ米大統領の広島訪問を巡る報道が主なテーマ。広島大地域経済システム研究センター長・教授の伊藤敏安氏(61)、山口県立大副学長の加登田恵子氏(60)、弁護士の中田憲悟氏(56)の3委員が、編集局幹部や担当記者と意見を交わした。(司会は江種則貴編集局長)

平和

ヒロシマの立ち位置は 伊藤氏

市民共感の発信も必要 加登田氏

核廃絶求める声今後も 中田氏

  ―米国の現職大統領で初めてオバマ氏が5月27日に広島の地を踏み、歴史的なニュースの発信に取り組みました。被爆71年の平和報道ではその意味をどう考えるか意識しました。
 伊藤委員 オバマ氏側近のベン・ローズ大統領副補佐官へのインタビュー記事は非常に面白かった。演説で政策より道徳的な自覚を促す点を重視したことなどが分かり、読み返すきっかけになった。

 「5・27」以降の報道では、「真価が問われるのはこれから」といった表現がたくさん出てくる。そんな中、日本政府が取ろうとしている方向性は被爆者の思いと離れている。日本が置かれている「被爆国の自己矛盾」の状況や安全保障上、国際環境上の問題を丹念に紹介し、広島、長崎の立ち位置を探ってほしい。

 加登田委員 被爆者との抱擁は、オバマ氏の素晴らしい人格が出たのだと思う。一方、(演説内容から)核兵器のスイッチを持つ米国大統領としての考えに距離を感じ、がっかりもした。

 中国新聞が日本政府や地元行政、海外メディアの反応を探るなどして、訪問の事実を多面的に伝えようとする思いは伝わった。でも(厳重な警戒のため)市民にはオバマ氏に「会えた」という実感はない。政治的な視点だけではなく、より市民が共感を得やすいような発信も必要だと思う。

 中田委員 被爆者の父が1月に亡くなり、8月6日は久しぶりに平和記念式典に参列した。改めて被爆者が発言する重要性を考えさせられている。

 オバマ氏は演説で核兵器廃絶について「私が生きているうちは達成できないかもしれない」とした。この点に疑問を持ち、批判する記事があったが、もっともである。被爆地が謝罪と核廃絶を求める声を上げず、中立的な立場を取り始めると危険な状態になる。今の姿勢を維持してほしい。

いとう・としやす
 1955年、山口市生まれ。関西学院大大学院社会学研究科修士課程修了。日本統計センター主任研究員などを経て2002年、広島大地域経済システム研究センター教授。03年4月からセンター長併任。専門は地域経済学、地方財政。著書に「地方分権の失敗 道州制の不都合」など。広島市中区在住。

かとだ・けいこ
 1955年、広島市中区生まれ。日本女子大大学院博士課程前期修了。共栄学園短大助教授、山口県立大社会福祉学部長などを経て、2016年4月から現職。同大地域共生センター所長も兼務する。専攻は社会福祉学、児童家庭福祉。山口地方最低賃金審議会委員を務める。山口市在住。

なかた・けんご
 1959年、広島市南区生まれ。明治大法学部卒。92年に弁護士登録。広島弁護士会副会長などを歴任。2010年から16年3月まで広島大法科大学院教授を務めた。数多くの少年事件の弁護人などを担当してきた。NPO法人「子ども虐待ホットライン広島」の副理事長も務める。広島市南区在住。

編集局から

滞在52分 実像に迫った

 この夏の原爆・平和報道では、オバマ米大統領の広島訪問の実像に迫った。

 最側近のベン・ローズ大統領副補佐官への単独インタビューから、「軍縮の追求という道徳的な使命」を発信しようとした、平和記念公園(広島市中区)での演説の成り立ちの一端を明らかにできた。原爆資料館で佐々木禎子さんの折り鶴を見て「最も心を動かされた」という、オバマ氏の感想も聞けた。

 ただ、公園滞在は52分。どれだけ被爆の実態に向き合えたのかという疑念が当初からあった。演説場所にあった町の営みや、会場に招かれた被爆者が今も背負う苦悩などを8回の連載で紹介した。駆け抜けた52分の背景にあるヒロシマの重みを伝えたかったからだ。

 大統領の広島訪問を経て米国は「核兵器なき世界」の実現へどう歩むのか、引き続き注視したい。(報道部・岡田浩平)

(2016年11月5日朝刊掲載)

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