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社説・コラム

著者に聞く 「オバマへの手紙」 三山秀昭さん 市民の心が促した広島訪問

 5月27日のオバマ米大統領の広島訪問から間もなく半年。あの歴史的訪問がどんな国際情勢の下で実現したのか、全国紙の元ワシントン特派員で現在は広島テレビ放送社長を務める著者が、自らの活動のドキュメントを交えながらつづる。

 本書によると、「核兵器なき世界」を提唱した2009年のプラハ演説後、オバマ政権は広島訪問の可能性を初訪日の際に日本側に打診したが、曲折が重なって実現に至らなかった。

 障害になったのは、例えば13年の安倍晋三首相の靖国神社参拝。アジア・太平洋重視の「リバランス」外交を基本としたオバマ政権にとって、中国や韓国への配慮は欠かせず、広島訪問に少なからず影響したとみる。日米2国間だけでなく、「くもの糸のように張り巡らされた国際政治の関係性に目を向ける必要がある」と説く。

 日本で主要国首脳会議(サミット)が開かれる16年こそ本命の訪問時期と見据えていた。「カレンダーに選挙などの政治日程を当てはめれば、おのずと浮かんでくる」。14年に広島テレビの事業として「オバマへの手紙」を広く募集すると宣言し、アクションを強めていく。

 15年、前年に続いてホワイトハウスを訪れ、国家安全保障会議(NSC)の高官と面談した際のやりとりは緊張感がある。著者は市民1400人分の「オバマへの手紙」を渡した後、原爆投下への謝罪を求める訪問要請ではないとの考えを伝え、16年の米大統領選の行方も気に掛けつつ、米海兵隊岩国基地を経る訪問経路案まで示し、可能性を引き出そうとする。

 最終的にオバマ氏を広島に招き寄せたものは何だったのか。ケネディ駐日米大使を筆頭に、ケリー米国務長官、岸田文雄外相の「3K」が果たした政治的な役割以外に、被爆死した米兵捕虜の調査を続けてきた森重昭さんの存在を重視する。そして最大の要因は「謝罪にこだわらない広島市民の心だった」と捉える。(上杉智己)(文春新書・842円)

みやま・ひであき
 1946年富山県生まれ。読売新聞政治部長などを経て2011年から広島テレビ放送社長。著書に「世界最古の『日本国憲法』」など。

(2016年11月6日朝刊掲載)

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