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社説・コラム

社説 日本とミャンマー 真の民主化 支援したい

 勝ち取った民主化を後戻りさせないことが最も肝要だ。日本は経済協力を軸に、少数民族武装勢力との和平などを強力に後押しする必要があるだろう。

 ミャンマーで3月に発足した新政権の事実上のトップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が就任後初めて来日し、おとといまで滞在した。会談した安倍晋三首相は、今後5年間でインフラ整備など8千億円規模の支援を行うと表明した。

 安倍政権としては基本的価値観を共有するパートナーとして連携を深める「価値観外交」の理念で臨もうとしている。軍事政権の弾圧に抗し、スー・チー氏が1988年以来率いてきた国民民主連盟(NLD)は昨年11月の総選挙で圧勝して政権の座に就く。しかし、民主化にはなお課題が多いのも事実だ。

 まず、軍事政権下で制定した現行憲法では国軍が重要閣僚を任命するなど大きな支配力を維持しており、外国籍の家族がいるスー・チー氏は大統領になれない規定である。スー・チー氏は当面、国軍と協力して政権を安定させる構えだが、いずれ一層の改革が必要だろう。

 次に、スー・チー氏が最優先課題とする少数民族武装勢力と国軍の和平である。和平を目指す新政権下で最初の会議が8月末から開催されたものの、合意のめどはまだ立っていない。多数派の仏教徒から迫害を受けてきたイスラム教徒のロヒンギャの問題もあろう。これまで発言を控えてきたスー・チー氏が指導力を発揮すべき正念場だ。

 三つ目は経済の立て直しである。インフラ整備の遅れや人材不足など軍事政権が残した難題が立ちふさがっている。新政権への期待は大きい。それだけに、経済が低迷したり、開発の恩恵が富裕層ばかりに集中したりした場合、落胆が広がって政権の基盤が揺らぎかねない。

 むろん過去の日本の外交姿勢も、スー・チー氏にとっては必ずしも納得のいくものではなかったに違いない。軍事政権を厳しく非難して経済制裁を科す欧米と一線を画した日本は、軍事政権を孤立させず民主化への努力を促していたからである。

 安倍首相との共同記者発表では「支援がわれわれの和平の構築、国家の発展に資すると期待する」と述べた。過去の日本の支援は和平につながらなかったと、示唆したのではあるまいか。その真意をくみ、過去の外交の在り方を省みて、ミャンマーの国民大多数に受け入れられる支援策を探るべきだろう。

 スー・チー氏も日本の経済協力を重視する立場を鮮明にし、財界人にも会って投資を要請した点は注目されていい。経済の不振が新政権へのダメージになりかねないからである。「不屈の野党政治家」のイメージがある一方で、したたかな現実路線を打ち出したともいえよう。

 日本の支援には「アジア最後のフロンティア」への企業進出を後押しする狙いがある。現地の日系企業は300社を超え、増え続けている。中国、インドと国境を接するミャンマーの地理的な重みも念頭にあろう。

 むろん重要であるのは、新政権の安定と真の民主化のため役立つかどうか、吟味して支援の中身を詰めていくことだ。それがスー・チー氏の言う「国民レベルの関係をさらに密にする」ことにつながるに違いない。

(2016年11月7日朝刊掲載)

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