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社説・コラム

広島市立大広島平和研究所 水本副所長に聞く 米大統領トランプ氏

核政策急転 考えにくい 非人道性 発信続けて

 米大統領選でトランプ氏が勝利したことを受け、同国の核政策への影響や、被爆地広島からの今後の発信の在り方について、広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(核軍縮)に聞いた。(明知隼二)

  ―トランプ氏が大統領に就任することで、米国の核政策は変化しますか。
 現時点で核兵器についてどのような理念を持っているのか分からず、政策の予測はしづらい。ただ、核政策は高い専門性が求められる分野で、政策ブレーンや官僚など実務レベルの約束事で動いている面がある。権限の強い米大統領とはいえ、急激な変化は起きにくいだろう。まずは出方を見る必要がある。

  ―大統領選では、日本の核武装を容認する発言もありました。
 米国は日本の独自核武装を避けたいからこそ「核の傘」を提供してきた。発言がそのまま政策になることはないだろう。ただ、日本の市民もこうした背景を学ばずに現状を受け入れてきた。「核の傘」の意味をあらためて考える契機になる可能性はある。ただし、安易に独自武装論に流れないよう冷静になるべきだ。

  ―核兵器の法的禁止に向けた議論への影響は。
 ブッシュ前政権時代も、対テロ戦争の名の下に核軍縮が止まった。トランプ氏がもし国家間に信頼よりも摩擦を持ち込む人物なら、核兵器の廃絶を遠ざけ、使用のリスクを高める懸念はある。日本は米国に迎合せず、従来示してきた廃絶への立場を堅持すべきだ。

  ―被爆地が果たすべき役割は変わりますか。
 被爆地は実体験と科学的知見の厚みをもって、核兵器の危険性と非人道性を訴えてきた。その重みはどんな情勢でも変わらず、今まで通り発信を続ければいい。トランプ氏のような人物にこそ被爆地訪問を求める意味がある。米国の良識派の政治家や市民に、核兵器廃絶を引き続き訴えることも重要だろう。

(2016年11月10日朝刊掲載)

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