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社説・コラム

社説 首相とトランプ氏会談 関係構築 楽観はできぬ

 安倍晋三首相が米ニューヨークを訪れ、次期大統領のトランプ氏と会談した。

 1時間半にわたった会談を終え、首相は「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」と記者団に述べ、トランプ氏も「素晴らしい友好関係を始めることができてうれしい」とフェイスブック上で表明した。

 主要国の首脳として初めてトランプ氏との直接会談にこぎ着け、世界から注目される中、友好関係を世界にアピールした。狙い通りに新政権発足前というタイミングで、なんとか話し合いの土台はできた。首脳同士の信頼関係の構築に向けて一歩を踏み出すことができた点では評価してもよかろう。

 日本の首相が就任前の次期米大統領に会うのは極めて異例だった。事務レベルの根回しのない「ぶっつけ本番」の会談もほとんど前例がない。トランプ氏とのパイプがほとんどなかったことの表れでもある。

 大統領就任前で非公式の会談との理由で、具体的な内容をほとんど公表しなかったが、首相は「私の基本的な考え方は伝えた。さまざまな課題について話をした」と語った。

 アジア太平洋地域だけでなく世界規模で日米同盟の重要性が増していることなどを説明し、環太平洋連携協定(TPP)を含めた自由貿易主義の意義を強調したとみられる。ただ、両者の間で認識が一致したかどうかは不明だ。

 トランプ氏は大統領選で、日本に対し、厳しい発言を繰り返した。選挙向けとみる向きもあるが、今もほとんど修正されていない。真意を見極め、突っ込んだ協議に踏み込むのは大統領就任後に持ち越した。日本の懸念材料は残ったままといえる。

 中でも、保護貿易主義の傾向が色濃いトランプ氏の通商政策の行方が注目される。選挙戦では、安倍政権が成長戦略の柱とするTPPについて「国内の雇用を奪う」とし、「大統領就任日に脱退を表明する」と明言した。中国への関税強化を訴え、輸出を増やすために日本も含めて為替操作をしているなどと主張してきた。

 日本経済にも影響は大きい。日本政府はTPPだけでなく、保護主義の広がりを抑止するため、国際的な結束を強める手だてを講じなければならない。

 安全保障についても、トランプ氏は「米国が日本や韓国を防衛している対価を、十分払っていない」とし、選挙戦では日本などの同盟国に米軍駐留経費の負担増を求める姿勢を崩さなかった。誤解を正す必要がある。

 トランプ氏は「米国第一」を掲げ、「米国は世界の警察官ではいられない」とも発言していた。アジア太平洋地域における安全保障戦略が修正される可能性も残る。中国の軍事的な台頭に加え、北朝鮮の核開発に対する抑止力に悪影響が出るのを防ぐことが肝要となる。

 トランプ新政権における国務長官のポストはまだ決まっていない。対日関係の個別的な政策方針も、これから固まってくるはずだ。大統領に就いたら現実路線に転換するとの見方もあるが、新政権がどう出てくるのかの予測は難しい。

 首相の見立て通り、トランプ氏が本当に「信頼できる指導者」と言えるかどうか、まだ楽観はできない。

(2016年11月19日朝刊掲載)

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