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社説・コラム

社説 日露首脳会談 国民の理解得る決着を

 安倍晋三首相が、ロシアのプーチン大統領とペルーの首都リマで会談した。12月の長門市で開かれる首脳会談に向けて、両トップが膝詰めで向き合う最後の機会となった。

 ただ会談では領土交渉の難しさがあらためて浮き彫りになった。安倍首相は9月の会談後、「新しいアプローチに基づく交渉を進めていく。道筋は見えてきた」と強調していた。それが今回は「大きな一歩を進めることは簡単でない」とトーンダウンさせたからだ。

 長年の懸案である北方領土問題を解決し、戦後71年間も結べなかった平和条約が締結できるのか。交渉はいよいよヤマ場を迎えたといえよう。

 会談は1時間10分に及んだ。うち約35分は、通訳を除いて両首脳2人だけで話し合った。日本側は、5月に提案した8項目の経済協力プランの作業計画を説明し、岸田文雄外相の訪ロも確認した。両首脳の会談はことしだけで既に今回3回目を数える。安倍首相の並々ならぬ熱意が感じられる。

 日本政府は、北方四島の帰属問題を解決した上で、平和条約を結ぶのが基本姿勢だ。経済制裁や原油価格の下落で苦境にあるロシアへの経済協力を進めて譲歩を引き出し、北方領土の返還につなげたい考えだ。

 ただ、ロシアのスタンスは見えてこない。先日来日したロシアの上院議長は「島の主権を渡すことはできない」と明言。プーチン氏も領土交渉について「期限を設定することは有害」と述べたと伝えられている。

 12月の会談まで1カ月足らず。安倍首相とプーチン氏の個人的な信頼関係で領土問題の打開を図るという戦略に黄信号がともりつつあるのではないか。

 背景には北方領土が返還された場合の双方の思惑の違いがあるのかもしれない。ロシア側は返還した後、日米安全保障条約に基づき、米軍が島に駐留する可能性を懸念しているという。米軍の拠点となれば、安全保障上の脅威になるためだ。

 一方で日本政府としては、北方領土を安保条約の適用外とすることは難しかろう。沖縄県・尖閣諸島を安保条約の適用範囲と認めるよう米国側に求めてきた経緯もある。北方領土を「例外」とすれば、日米同盟にひびが入る恐れもある。

 さらに次期米大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことも影響している可能性がある。トランプ氏は大統領選で「ロシアとの関係を改善させる」と明言してきた。米国はウクライナ問題などを巡りロシアと対立してきたが、両国の摩擦は和らぐ可能性が浮上している。そうなればロシア側が日本に接近する戦略的意義が薄れよう。今後の米国との関係を見て、北方領土交渉を進めたいというのがプーチン氏の本音かもしれない。

 戦後71年が過ぎても、平和条約が締結できないことは正常とはいえないだろう。多くの日本国民が領土問題の解決を求めている。ただ、ロシア側は歯舞群島と色丹島の2島引き渡しで決着させるシナリオを描いているとされ、日本からすれば「納得できない」との意見も根強い。

 領土交渉は一方の言い分が100パーセント通るものではない。多くの国民の理解を得る決着へ向け両首脳の人間関係の真価が問われる。

(2016年11月21日朝刊掲載)

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