天風録 「『言刃』の傷」
16年11月21日
悪意の込められた言葉は、「言刃(ことば)」と言い表せよう。福島から来たというだけで「ばい菌」扱いされ、「ほうしゃのうだとおもってつらかった」と。どれほど心を切り裂かれ、傷ついたのだろうか▲原発事故で故郷を離れ、横浜市に自主避難した少年の手記を読んで、言葉を失った。小学2年で転校した直後から殴られたり蹴られたり、冷酷ないじめが続く。「賠償金があるだろう」と言われ、遊興費もせびられた▲救いを求めても、「せんせいに言(お)うとするとむしされてた」。異郷の地で学校にも先生にも相手にされぬ絶望感はいかほどだったろうか。中学生になった現在も学校に通えていないという。金銭の授受を早くに把握しながら放置した学校の「罪」は重い▲「放射能はばい菌のようなもの」「被災者はたくさん賠償金をもらっている」―。いわれのない誤解や偏見がいじめにつながったのではないか。「福島の人はいじめられるとおもった」との言葉にやりきれなさが募る▲「しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」。強い心を持っていてくれた、この少年の言葉に救われる。同じように子どもを傷つけることがあってはならぬ。
(2016年11月21日朝刊掲載)
(2016年11月21日朝刊掲載)