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社説・コラム

社説 福島沖でM7・4 震災の教訓生かせたか

 強い揺れと津波、原発への影響。きのう早朝、福島県沖で発生したマグニチュード(M)7・4の地震は2011年3月11日の東日本大震災の記憶を強く呼び覚ました。気象庁が津波警報を出すのも約4年ぶりだ。

 あの日のM9・0の巨大地震の余震と考えられるという。エネルギーの規模では21年前の阪神大震災やことしの熊本地震を上回った。5年8カ月を経ても続く海底の地殻変動が、これほどの地震を引き起こした事実はやはり重い。大震災はいまだ続いているということなのか。

 今回の地震は「正断層型」と呼ばれる津波が発生しやすいメカニズムのようだ。仙台港で観測した1・4メートルという津波の高さは3・11後では最大といい、幾つもの川を逆流する映像には確かに不気味さを覚えた。

 ただ昼までに警報も注意報も解除され、漁船の転覆などのほかは大きな津波被害がなかったのは幸いだった。一方で地上の震度は最大5弱にとどまったものの、自宅での転倒など各地でけが人が発生した。今後も同様の地震が起きる恐れがある。警戒がさらに必要だ。

 そのためにも3・11の教訓を生かせたか、十分に検証しておくべきだ。何よりリスクを最大限に想定し、人命第一でいち早く行動に移すことである。

 津波からの避難で住民の動きはどうだったか。落ち着いて高台に逃げた人は多く、全体ではスムーズに行動できたように見える。服装や持ち物を気にせず着の身着のままの人もいれば、近所の高齢者に声を掛けて一緒に避難する場面も報じられた。夜勤明けの従業員を引き留めて職場に待機させた工場もあったそうだ。津波に巻き込まれないための意識が被災地に一定に根付いていることがうかがえる。

 半面、課題も浮き彫りになった。福島県内などではマイカー避難の集中で渋滞が発生した。宮城県では市役所に避難しようとした住民を、警備員が「津波警報がまだ出ていない」と一時断る混乱が起きたという。反省すべきは反省しておきたい。

 こうした教訓は私たちの地域でも生かせる。熊本地震や鳥取中部地震の発生で内陸型地震の方に目が向いてきたが、近い将来の南海トラフ巨大地震がもたらす津波のリスクには瀬戸内海沿岸も直面している。そのことを思い起こす契機にすべきだ。

 もう一つ、きのうの地震から考えるべきは原発の安全性が地震の際に確保されるかどうかである。今度は事故を起こした福島第1原発の隣で運転を停止中の第2原発3号機で、思わぬトラブルがあったからだ。

 津波ではない。揺れに伴って使用済み核燃料プールの冷却装置が一時停止した。仮にずっと冷却できなければ燃料が溶け出す重大事態になりかねない。東京電力によればプールの水が揺れ、水位低下とみなす警報が出たためで、異常はないとして1時間半余りで冷却を再開した。だが、また事故になるのではと肝を冷やした住民もいよう。

 この停止は正常な機能と繰り返す東電は事態を軽視してはならない。第1原発の方も異常はないというが、廃炉に向けて困難で綱渡りの作業が続く。もとより災害には脆弱(ぜいじゃく)との指摘もある。これ以上の地震や津波が来ればどうするか。東電も国も十二分に備えるのは当然である。

(2016年11月23日朝刊掲載)

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