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社説・コラム

中国経済クラブ 講演から 米新大統領と今後の日米関係 青山学院大・会田弘継教授 

中産階級の反乱 共に対応策探れ

 中国経済クラブ(山本治朗理事長)は25日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開き、青山学院大地球社会共生学部の会田弘継教授が「米新大統領と今後の日米関係」と題して話した。トランプ氏が大統領選で勝利した背景を「下層中産階級の反乱」と表現。「米国で起きた現象は先進国全体の課題。一緒に対応を探るべきだ」と指摘した。要旨は次の通り。(長久豪佑)

 トランプ氏の勝利は、下層中産階級の白人たちによる、エリート階級への反乱と捉えることができる。

 選挙結果で注目すべきは、これまで民主党が強かった五大湖周辺が、一挙に共和党へ変わった点。ここが反乱の現場だ。世界屈指の工業地帯だが、今や自動車工場は国外に移転して街は寂れた。多くの労働者が失業や転職を余儀なくされた。トランプ氏はそういう人たちに訴えかけた。

 全体の出口調査によると、トランプ氏は白人票をごそっと持っていった。加えて非大卒者の多くの票を得た。学歴の違いは職業や収入の差になる。

 この現象は、「冷戦後」「9・11後」「リーマン・ショック後」という三つの潮流が重なった結果だ。

 冷戦後、グローバルな資本主義が形成された。1990年代に米国は発展を遂げるが、途上国へ製造業が移された。その中での9・11米中枢同時テロ。米国への大きな反動で、それを押しつぶすため戦争に打って出た。一方でグローバル化は進み続け、リーマン・ショックが起きた。

 その後、オバマ大統領は株価などの数字上は経済を立て直した。ただ、細かな統計では、実質所得は下がり、貧困率は増大。中間層はやせ細った。見掛けの繁栄の裏で、人々の暮らしは苦しくなった。「要因は企業が海外移転をしているから。政府はそれを助けている」「政府は不法移民の面倒ばかり見ている」といった声が世論調査から分かる。

 トランプ氏の主張は、こんな怒りを踏まえたものだ。しかし当選後は違うことを言いだした。票のためなら何でも言ったが、さあどこまで政策にできるかと考えている段階。やりやすいものからと、環太平洋連携協定(TPP)の脱退を早速表明した。

 日本はどうすべきか。防衛政策では、日米同盟がないがしろにされるなら、まずは国連を通じた外交が一番。中国とロシアをけん制させ合うのも手かもしれない。独自防衛は国民の理解が大切。いろいろな手をバランスよくやるのが重要だ。通商戦略も含め、慌てず慎重に取り組まないといけない。

 何より日本や欧州諸国は米国同様の社会システムにある。米国で起きたことは先進国全体の課題だ。欧州では英国の欧州連合(EU)離脱や移民排斥の動きがあり、これらは下層中産階級の怒りが背景といえる。日本でも同じことが起きる根がある。先進国全体で対応を探ることが重要だろう。

あいだ・ひろつぐ
 51年埼玉県川口市生まれ。東京外国語大英米語科卒。76年に共同通信社に入社し、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。15年から現職。

(2016年11月26日朝刊掲載)

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