社説 国連の北朝鮮制裁強化 核放棄へ歩調そろえよ
16年12月2日
国連安全保障理事会は、北朝鮮による9月の核実験を強く非難し、制裁を強化する決議案を全会一致で採択した。北朝鮮の主な外貨獲得源である石炭輸出に上限を設け、銅やニッケルも禁輸品目に加えて、資金面から核・ミサイル開発を封じ込める圧力がより明確になった。
1月の核実験を受けた3月の制裁決議は「抜け道」があり、功を奏しなかった。決議後に核実験を許すような甘い対応だったのだ。今度こそ各国は足並みをそろえ、核・ミサイル開発への監視を強めるべきである。
3月の制裁決議の抜け道は当初から懸念されていた。北朝鮮国内の混乱と、それに伴う難民の発生や流入を招きたくない中国とロシアが、米国主導の制裁案に注文を付けたからだ。
この時は、石炭の北朝鮮からの輸入について「民生目的」を例外としたほか、航空燃料の北朝鮮への輸出について「民間」は例外として認めた。それぞれの国がさじ加減できる余地を残してしまい、石炭の禁輸は有名無実になったといえよう。
ゆえに制裁に効力を持たせるための鍵を握るのは中ロ、とりわけ中国ではないのか。
仮に今回の決議で石炭輸出に上限を設けたとしても、貿易統計には表れない裏取引や、他の国を迂回(うかい)する取引があっては意味がない。石炭輸出による外貨収入が国民の生活向上につながるという保証もあるまい。
無謀な核・ミサイル開発をこれ以上進めるなら、国際社会は黙っていないという明確なシグナルを発することに、中国は誠実に協力してもらいたい。
今回の決議について、中国は11月の米大統領選の結果を待って動いた跡があるという。オバマ大統領と違ってトランプ次期大統領は、核兵器の放棄にはこだわらず、北朝鮮と直接対話する新たな政策を選ぶ可能性があるからではないだろうか。
むろん、北朝鮮が制裁強化に反発して軍事挑発に出る恐れもないではない。ただ挑発に出れば、トランプ氏を硬化させることにつながりかねない。国連安保理が制裁強化を決議しても北朝鮮の出方に当面影響はないと中国は踏んだとみていい。
米国と北朝鮮の直接対話が実現するのは好ましい。しかし、それはあくまで核・ミサイル開発の放棄を含む東アジアの非核化を前提にすべきだろう。
トランプ氏は選挙戦では、テロリストへの核使用や日韓の核武装容認に言及していた。オバマ政権がイランと取りまとめた核合意について「再交渉する」と言明したこともあるが、いずれも由々しきことである。
選挙戦での発言は今のところ封印しているようだが、トランプ氏は核保有大国の責任を自覚すべきだ。再び核拡散をあおるような言葉を発して、北朝鮮の核開発を容認するような流れにしてはならない。
現実には北朝鮮はすぐに姿勢を改めないかもしれない。日本政府は独自制裁措置を検討するだけでなく、2016年度の第3次補正予算案を編成する方針を固めた。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた地対空誘導弾パトリオット(PAC3)改修費など、ミサイル防衛の関連経費を計上するという。
しかし制裁とは両輪となる粘り強い外交努力を尽くす姿勢を忘れてはならない。
(2016年12月2日朝刊掲載)
1月の核実験を受けた3月の制裁決議は「抜け道」があり、功を奏しなかった。決議後に核実験を許すような甘い対応だったのだ。今度こそ各国は足並みをそろえ、核・ミサイル開発への監視を強めるべきである。
3月の制裁決議の抜け道は当初から懸念されていた。北朝鮮国内の混乱と、それに伴う難民の発生や流入を招きたくない中国とロシアが、米国主導の制裁案に注文を付けたからだ。
この時は、石炭の北朝鮮からの輸入について「民生目的」を例外としたほか、航空燃料の北朝鮮への輸出について「民間」は例外として認めた。それぞれの国がさじ加減できる余地を残してしまい、石炭の禁輸は有名無実になったといえよう。
ゆえに制裁に効力を持たせるための鍵を握るのは中ロ、とりわけ中国ではないのか。
仮に今回の決議で石炭輸出に上限を設けたとしても、貿易統計には表れない裏取引や、他の国を迂回(うかい)する取引があっては意味がない。石炭輸出による外貨収入が国民の生活向上につながるという保証もあるまい。
無謀な核・ミサイル開発をこれ以上進めるなら、国際社会は黙っていないという明確なシグナルを発することに、中国は誠実に協力してもらいたい。
今回の決議について、中国は11月の米大統領選の結果を待って動いた跡があるという。オバマ大統領と違ってトランプ次期大統領は、核兵器の放棄にはこだわらず、北朝鮮と直接対話する新たな政策を選ぶ可能性があるからではないだろうか。
むろん、北朝鮮が制裁強化に反発して軍事挑発に出る恐れもないではない。ただ挑発に出れば、トランプ氏を硬化させることにつながりかねない。国連安保理が制裁強化を決議しても北朝鮮の出方に当面影響はないと中国は踏んだとみていい。
米国と北朝鮮の直接対話が実現するのは好ましい。しかし、それはあくまで核・ミサイル開発の放棄を含む東アジアの非核化を前提にすべきだろう。
トランプ氏は選挙戦では、テロリストへの核使用や日韓の核武装容認に言及していた。オバマ政権がイランと取りまとめた核合意について「再交渉する」と言明したこともあるが、いずれも由々しきことである。
選挙戦での発言は今のところ封印しているようだが、トランプ氏は核保有大国の責任を自覚すべきだ。再び核拡散をあおるような言葉を発して、北朝鮮の核開発を容認するような流れにしてはならない。
現実には北朝鮮はすぐに姿勢を改めないかもしれない。日本政府は独自制裁措置を検討するだけでなく、2016年度の第3次補正予算案を編成する方針を固めた。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた地対空誘導弾パトリオット(PAC3)改修費など、ミサイル防衛の関連経費を計上するという。
しかし制裁とは両輪となる粘り強い外交努力を尽くす姿勢を忘れてはならない。
(2016年12月2日朝刊掲載)