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広島の世界遺産20年 原爆ドームと厳島神社 <2> 景観と開発 両立手探り

 フェリーで廿日市市の宮島へ。船を下りると、2階の窓いっぱいにフクロウの写真を飾ったビルが目に飛び込んでくる。1月にオープンした観光施設「厳島フクロウの森」。フクロウに触れられることができ、家族連れや女性客でにぎわう。呉市の美容師山本香織さん(41)は「宮島にない感じの店でゆっくりできた。また来たい」と話した。

 同様の施設は全国に広がり、世界最大の旅行口コミサイトがまとめる外国人に人気の国内観光地ベスト10に入る店もある。ただ、島民の間では景観にそぐわないとの声が少なくない。

 「宮島にふさわしいか。危機感を持つべきだ」。元宮島町長で市議の佐々木雄三さん(66)は10月、市議会委員会で市幹部に迫った。

軒先の看板撤去

 古代から信仰の対象とされた宮島。島全体が国の特別史跡と特別名勝に指定され、住宅の増改築には文化庁や市教委の許可が必要。和風な外観を求められる。

 フクロウの森を運営する動物展示業のオウル(大分市)は当初、規制の存在を知らなかった。開業後、市教委の指導を受け、軒先の看板を撤去するなどした。上田浩行社長(54)は「観光客の思い出づくりに一役買いたいと思い、開業した。景観との調和を考え、島の魅力を守りたい」と話す。

 宮島では近年、島外の人による出店が相次ぐ。宮島町商工会の梅林保雄会長(67)は「厳しいルールを守った上での島外からの挑戦は大歓迎」と地域の活性化を喜ぶ。ただ、佐々木さんには「守ってきた風景が崩されかねない」との懸念が残る。

「地域衰退招く」

 広島市中区の世界遺産、原爆ドーム周辺でもことし、景観の変化があった。道一本を挟んだ東隣で、9月に開業した14階建ての「おりづるタワー」。平和記念公園を見渡す展望スペースを備え、市民や観光客が平和を考える新名所として定着しつつある。

 タワーは、高さ51・5メートルのビルを大規模に改修して完成した。手掛けたのは所有者の広島マツダ(中区)。ドーム周辺の建物の外観を「暖色系の落ち着いた色」と定める市の景観計画に沿うため、壁面を木製の目隠しや植栽で覆い、有識者でつくる市景観審議会の同意を得て着工した。

 総工費は約70億円。「景観面への配慮でコストが増え入場料が高くなった」と同社の松田哲也会長(47)。「過度な規制は再開発を減速させ、地域衰退を招く可能性がある」と指摘する。

 5月のオバマ米大統領の訪問でドームに対する世界的な注目が増す中、市は景観計画などに高さ規制を盛り込みたいとの意向を持ち始めた。20年前に人類共有の財産と決めた景観を守る目的だが、事業者の反発も予想される。世界遺産の理念と観光地ににぎわいをもたらす企業活動をどう両立するか。行政と企業の双方が模索を続けている。(長部剛、長久豪佑)

(2016年12月2日朝刊掲載)

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