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連載・特集

広島の世界遺産20年 原爆ドームと厳島神社 <4> 島に根付く「域学連携」

 厳島神社が立つ宮島(廿日市市)の桟橋から歩いて5分。築81年の町家に、島民や広島市民、大学の研究者、学生たち20人が集まった。広島工業大が11月下旬の土曜日に開いた講座。フランスの集合住宅管理をテーマにした岡山大大学院講師の解説を聞き、意見も交わした。

講座やイベント

 会場は、広工大が2006年に開設した学習センター「宮島こもん」。宮島のまちづくりを中心に、講座や情報交換会を重ねている。世話人の森保洋之名誉教授(72)は「古い建物や町並みが残る宮島に研究者や学生が足を運び、住民と一緒に知恵を絞る場所」と説明する。

 貸主は、近くで宿泊施設を経営する菊川照正さん(58)だ。地域づくりに積極的に関わっており「学生や先生の出入りが地域に多様性を生み、面白い動きにつながる」と期待を抱く。

 大学と地域の協業は近年、「域学連携」と呼ばれる。宮島では厳島神社の世界遺産登録後、次々と域学連携が芽生えている。

 県立広島大は09年、学内に宮島学センターを設置。島の歴史や文化の研究を進める傍ら、地元の観光協会や歴史民俗資料館の事業にも協力する。広島経済大は11年、島内の元商業施設を購入し、セミナーハウス「成風館」に改装。ゼミ合宿などに生かしている。

 その成風館で11月、域学連携によるイベントがあった。学生21人でつくる「宮島の魅力を発信し隊」と、島で活動するNPO法人宮島ネットワークなどが手掛けた写真展。NPOの役員が学生を誘い、島の神事や例祭を一緒に撮影した。学生側は独自の観光冊子も作成。リーダーの3年沖広菜摘さん(20)は「知らないことばかり。島の魅力の大きさに驚いた」と明かす。

研究テーマ多彩

 NPO理事の呼坂達夫さん(67)は学生との協業を喜ぶ一方で、域学連携の進化も期待。もともと宮島自然植物実験所を構える広島大を含め、「大学同士が連携すれば、次世代へ伝えるべき自然や歴史、文化の研究を加速できる」と考える。

 呼坂さんの思いに呼応するような大学連携も、胎動している。築100年以上の町家を10月に借り、芸術教育の拠点として整備を進める広島市立大は、広島大など広島県内の8大学に共同利用を呼び掛けた。市立大社会連携センターは「関心は持ってもらえた」と、大学間の結び付き強化に手応えを示す。

 設立10年の宮島こもんでも、他大学の利用が広がる。「宮島の研究テーマは観光や景観、考古学にも及ぶなど多彩」と森保名誉教授。幅広い分野を総合的に研究する大学連合「大学コンソーシアム宮島」(仮称)を発足させる構想を温めながら、世界遺産の島を多角的に研究するための下地づくりを後押ししている。(山瀬隆弘)

(2016年12月4日朝刊掲載)

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