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「臨床宗教師」育成 被爆者に学ぶ 龍谷大 慈しむ姿勢に共感

 浄土真宗本願寺派の宗門校である龍谷大(京都市伏見区)が、医療現場での傾聴などで活躍する「臨床宗教師」の研修として被爆地実習を取り入れている。憎しみからの報復に訴えず、平和の尊さを発信し続けてきたヒロシマの心を学ぶカリキュラム。人を慈しむ被爆者の姿勢に共感する同大は、その願いの継承も臨床宗教師の使命と捉える。(桜井邦彦)

 同大大学院の実践真宗学研究科で学ぶ僧侶7人と教員3人が10月初め、広島市中区の平和記念公園を訪れた。原爆資料館で死没者の遺品に触れ、原爆の子の像に折り鶴100羽を手向けた。

 資料館では、爆心地から約1・3キロの竹屋国民学校(現竹屋小)で被爆した北川建次さん(81)=広島市佐伯区=から体験証言も聞いた。当時5年生で校舎内にいた北川さんは、同級生の多くが下敷きになって亡くなった記憶をひもといて、「がれきの下で『お父さん、お母さん、痛いよ』とうめき声が聞こえた」と回想。「周りは地獄。苦しみながら、みんな死んでいった。こんな恐ろしいことは二度とあってはならない」と力説した。

色紙に「恨親平等」

 「悲しみ、恨み、悔しさをどう乗り越えたか」と問われた北川さんは、「恨みが全くないわけじゃないが、それを言ったところで平和な世界は訪れない」と返した。

 龍谷大の参加者10人は全員の名前を添え、浄土真宗の宗祖親鸞の教行信証にも出てくる仏教用語「恨親平等」を書いた色紙を北川さんに贈った。敵も味方も同じ人間であり、分け隔てない命の重みがあるという意味だ。

 広島を初めて訪れ、被爆の実情に触れた浄土宗福成寺(堺市)僧侶の松寿謙宜さん(32)は「原爆という究極の苦しみを体験した方の、恐怖感や不安が胸に響いた。私の地元の堺にも空襲体験者がいる。そうした方々の苦悩に寄り添う活動ができるかもしれない」と思いを新たにしていた。

 同大は2014年度、臨床宗教師の研修を始めた。東日本大震災を機に12年度に育成を始めた東北大にならった。被爆地研修を取り入れたのは、龍谷大で研修主任を務める鍋島直樹教授(57)=真宗学=の思いからだ。

願い継承も使命

 鍋島教授は、別の大学の学生が起こした原爆の子の像での折り鶴放火事件(03年8月)などを受け、折り鶴1万羽を学生と折って翌04年10月に平和記念公園に届けた。それ以降、毎年、同公園を訪ねては折り鶴を像に手向け続けている。龍谷大の構内で原爆展を開いたこともある。

 「広島の人たちは悲しみをくぐり抜け、これまで支え合って生きてこられた。世界では報復の連鎖が続くが、決して暴力の形に訴えなかった」と鍋島教授。「広島市民の優しさと慈しみの心に共感した。その姿勢は宗教者も自覚しておく必要がある」と訴える。

 龍谷大での臨床宗教師の研修は1年目が座学、2年目は実習。被爆地研修のほか、病院での患者の傾聴、震災被災地訪問など、現場重視で学ぶのが特徴だ。こうした実習を昨年度までに修了した25人のうち、5人が医療や福祉系の現場で働き学びを生かしている。

 鍋島教授は「臨床宗教師は、戦争や災害で何も言えず亡くなっていった人の無念や悲しみを胸に刻んでおきたい。そうした方々の平和への願いを次世代に語り継いでいくのも、宗教師としての大切な使命ではないか」と、被爆地研修の意義を強調する。

(2016年12月5日朝刊掲載)

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