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社説・コラム

社説 イタリア首相辞意 既成政治へ怒り またも

 英国の欧州連合(EU)離脱決定、米国大統領選でのトランプ氏の勝利、そして次はイタリア。先進7カ国(G7)をまたも大きな衝撃が襲った。

 憲法改正の是非を問うイタリア国民投票が否決され、レンツィ首相が辞意を表明した。信任投票の側面が強く、現政権の路線が否定された形である。国内政治の混迷は必至で、経済改革も停滞する恐れがあろう。

 欧州政治全体への波及も懸念される。フランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相とともにEU再建へ主導的な役割を果たしてきたレンツィ首相の辞任により、欧州で反EU反移民を掲げる勢力を勢いづかせるかもしれない。既成政治への不信がさらに広がるなら、EUの存続問題に発展しかねない。

 イタリアで何が起きたのかを冷静に見極める必要があろう。今回の国民投票のテーマは上院の議員定数を315から100に減らし、法案審議や内閣信任の権限を下院に限定することなどが柱である。

 上院と下院の権限が同じため法案審議が長引くとして、レンツィ首相からすれば下院に権限を集中させる賭けに出たのだろう。ただ国民にとって唐突感は否めなかったのではないか。政府の権限が大幅に強化される内容にも映り、「独善的」と受け止められたのかもしれない。

 さらにいえば否決の底流には既成政治への怒りもあるに違いない。リーマン・ショック後、欧州で続く緊縮財政が中間層の生活を直撃している。多くの労働者は移民の増加で仕事を奪われているという不満を抱える。現政権は経済改革を進めてきたものの、多くの国民が恩恵を実感できていなかった。そうした民意が噴き出したといえる。

 既成政治への強い不満は、オーストリアでも示された。同じ日に開票された大統領選のやり直し決選投票である。

 リベラル政党「緑の党」の前党首が辛勝したとはいえ、移民排斥などを訴え、極右と非難されてきた対立候補の得票率が4割以上に達した。欧州初の極右大統領という事態こそ避けられたものの、EU諸国にとっては大きな懸念材料だろう。

 というのも欧州で来春以降、大きな選挙が続くからだ。特に3月のオランダ下院選では、極右政党が第1党になる可能性がある。4、5月のフランス大統領選でも極右の国民戦線のルペン党首が勢いづく。秋にあるドイツの総選挙でも、難民受け入れに反対する右派の議席獲得が確実視されている。

 各国の民意の動向を、しっかり注視せねばなるまい。

 同時に2度の大戦の教訓を踏まえ、「一つの欧州」を目指す原点を忘れてはならない。移民への差別や不寛容が憎悪を生む負の連鎖が拡大していくことは何としても避けるべきだ。

 英EU離脱、トランプ政権の誕生、イタリアの混迷。共通するのはグローバル化のひずみを踏まえ、自国第一の内向き主義が横行していることだろう。過激なナショナリズムに偏ることなく、格差是正や軍縮、難民保護などにどう向き合うかは、どの国も解の見えぬ難問である。ただ単に国境を閉ざせば何とかなるという話ではない。

 協調と分担を進めていく大切さを、国際社会でいま一度、見つめ直したい。

(2016年12月6日朝刊掲載)

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