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社説・コラム

社説 党首討論 かみ合う議論求めたい

 きのう、今臨時国会初の党首討論が行われ、民進党の蓮舫代表が就任後初めて安倍晋三首相との論戦に挑んだ。

 野党の党首らしく厳しく攻めたものの、首相は巧みに論点をすり替えたり野党批判で切り返したり、議論がかみ合わない場面が目立った。

 蓮舫代表はまず、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法案の審議を巡る自民党の強引な国会運営に厳しく切り込んだ。拙速な審議で衆院採決を行った問題点と、「賭博」であるカジノに頼った成長戦略に対する疑問を問いただした。

 首相はこれに対し、議員提出の法案だとして、国会の運営は「国会が決めること」と答弁し、自民党の総裁として成立を急ぐ理由について真正面から説明することを避けた。こうした姿勢では、国民の多くが懸念するカジノ解禁への理解は得られないのではないか。

 政権の経済運営や働き方改革を巡っても激しい応酬を繰り広げたが、本質論に迫ることができたとは言えない。安倍首相の答弁は、所信表明演説で呼び掛けた「建設的な議論」とは程遠いといえる。

 ただ、そうした数の力に頼った実力行使にブレーキをかけられない一因には、野党の力不足もあるのではないか。中でも、野党第1党である民進党の責任は重いはずだ。

 蓮舫代表は9月に就任した際、「批判から提案の民進党」を掲げた。代表就任後に初めて迎える臨時国会にも、政権の政策をただした上で対案を示す「提案路線」で臨んだが、存在感を示してきたとは言い難い。

 今国会の焦点となった環太平洋連携協定(TPP)や年金制度改革などを巡る重要法案の審議でも専ら安倍政権への批判が目立ち、必ずしも対案を示す論戦には持ち込めなかった。

 党首討論で激しくやり合ったカジノ法案を巡っても、民進党は迷走の感は拭えない。

 法案が衆院を通過したおとといの本会議の採決では、党としての賛否を決められないまま退席した。にもかかわらず衆院通過後は参院での審議にはあっさりと応じるなど、ちぐはぐな対応にしか思えない。党内には法案への推進派が多数いるほか、提出者に名を連ねる議員もいる。一枚岩に結束できない弱点が露呈した形である。

 もともと党内には憲法やエネルギー、安全保障など政策を巡っても幅広い意見がある。なかなか方向性を定められないのは旧民主党時代からの課題でもある。提案路線への転換を印象づけるには党内の意見集約という課題の克服が急務だろう。

 ただ、ゆっくり構えている時間はない。残り少ない臨時国会の会期中、政府与党のごり押しにどう歯止めをかけるか。

 さらに言えば首相が今月下旬の米ハワイ・真珠湾訪問を表明したのを踏まえ、もし政権浮揚に結び付くなら「年明け早期解散」もあり得るという観測が再び生まれている。

 蓮舫代表、そして民進党に求められているのは有権者の審判に足る政策である。今度こそ安倍政権との対立軸を明確に示すことができるか。そのためにもTPP承認案をはじめ重要法案の強引な採決を、このまま見過ごしてはならない。

(2016年12月8日朝刊掲載)

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