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日露首脳会談を前に <4> 山口県総合企画部長 大谷恒雄さん=山口市

大統領と市民 交流期待

 長門市での日ロ首脳会談の開催が9月に決まったのは青天のへきれきだった。山口県が外交の舞台となるのは、1895年に下関市のフグ料理店「春帆楼(しゅんぱんろう)」で交わされた日清戦争の講和条約「下関条約」以来、121年ぶり。警備を含めて、円滑で万全な運営態勢が求められると直感した。

 日ロ首脳会談に向けて県が設けたプロジェクトチーム(PT)のリーダーを務める。開催に向けた準備とともに、県の認知度を高めるのが任務だ。

 会談の成果は外交という国の専管事項であり、自治体として発言する立場にない。ただ、ことしは1956年の日ソ共同宣言から60年。日ロ関係がさらに前進し、新たな時代を切り開く有意義な会談となるよう、いい環境を整えたい。

 会談は世界中の注目を集める。県の魅力を発信する千載一遇のチャンス。モスクワの日本大使館で11月15日にあったレセプションには長門市とともに訪問団を派遣し、日本酒や水産加工品を売り込んだ。世耕弘成ロシア経済分野協力担当相(経済産業相)からは「ロシアでは山口がかなり話題になっている」と聞いた。

 県の情報発信に協力する「日露親善やまぐちPR特使」には、人気アイドルグループHKT48の村重杏奈さん(18)を起用した。

 県出身で、母親がロシア人。コンサートではロシア語であいさつするなど、懸け橋としてこれ以上ない存在だ。ブログには多くのコメントが寄せられ、若い人たちの関心を高めている。

 県の知名度は、特に海外ではまだまだ低い。会談でどう底上げするかを考える中で、インターネットや会員制交流サイト(SNS)を活用する新たなノウハウを蓄積しつつある。

 自身も長門市で生まれた。今回の会談に懸ける思いは人一倍という。

 プーチン大統領にはぜひ市内を視察してほしい。候補地として、日露戦争時に両国兵士の遺体が引き揚げられた通(かよい)の海岸にある日本兵とロシア兵の墓▽金子みすゞ記念館▽国重要文化財の赤崎神社楽(がく)桟敷―の3カ所を提案した。

 安倍晋三首相が5月に示した8項目の経済協力プランには、「人的交流の抜本的拡大」が盛り込まれた。プーチン氏と市民のふれあいは大きな後押しとなる。山口宇部空港(宇部市)で11月28日、初めての国際定期路線が韓国・仁川国際空港との間で就航し、ロシアが近くなった。県とロシアの交流を広げる契機にしたい。(村田拓也)

おおたに・つねお
 長門市東深川生まれ。九州大法学部卒。1981年に山口県庁へ入り、企業局総務課長、議会事務局次長、総務部理事兼岩国基地対策室長などを経て、ことし4月から総合企画部長を務める。

日露首脳会談の開催に向けた山口県プロジェクトチーム(PT)
 安倍晋三首相が9月2日、ロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会い、今月15日に長門市で首脳会談をすると合意したのを受けて、9月23日に発足した。県の大谷恒雄総合企画部長をトップに、長門市の今浦功次企画総務部長たち16人でつくる。視察の候補地や県産食材のリストを作り、外務省に情報を提供。会談開催を生かした県の認知度向上にも取り組んでいる。

(2016年12月9日朝刊掲載)

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