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社説・コラム

社説 岩国の米軍機墜落 事故のリスク直視せよ

 またしても米軍機の事故が起きてしまった。米海兵隊岩国基地(岩国市)所属のFA18戦闘攻撃機1機が、おととい高知県の沖合で墜落した。

 米軍の訓練空域に当たり、実弾射撃訓練などが実施されている場所である。墜落の理由は分かっていないが、防衛省などの説明を総合すると同型機と2機編隊で定期訓練中であり、パイロットは緊急脱出の末に海上で収容された。

 軍用機の訓練は民間の定期便などに比べ、おのずと危険がつきまとう。想定する任務に応じて時に難しい飛び方をすることもあるからだ。ことし9月には沖縄本島沖で岩国基地から飛来したとみられる攻撃機AV8Bハリアーが墜落したばかりである。米軍の理屈からは、ある意味で事故が起きるのも「織り込み済み」なのかもしれない。

 しかし基地周辺で事故の不安と隣り合わせで暮らしてきた住民にとっては違う。地元に対してろくな説明もしないまま同型機を含む米軍機が岩国で飛び続けるのは疑問だ。岩国市などは原因究明と再発防止の徹底を申し入れたが、もっと強い姿勢で臨んでもいい。

 岩国基地所属の米軍機の事故は過去に繰り返し起きている。岩国市によると、同基地周辺だけで70件、墜落は30件に上る。機体の性能が上がり、昔より事故の数は減ってはいるものの、近年は訓練ルートに当たる四国や高知の空域で目立つ。1994年には高知県の早明浦ダムに墜落した。99年には高知県沖で同じFA18が墜落し、発電所などを目標とした攻撃訓練のさなかだったことが、事故報告書から明るみに出ている。

 今回の事故も海域でなく陸上で起きていたらどうなったか。岩国周辺だけではない。広島、島根県でも岩国所属機などによる飛行訓練が日常化している。心配に思う人は多いはずだ。

 岩国基地では折しも海兵隊のFA18などの機種変更として最新鋭ステルス戦闘機F35Bの配備が計画されている。山口県と市の受け入れ表明が焦点だが、10月に米国で同機種が重大事故を起こしていたことが判明して結論が留保されたままだ。さらに2017年にも米海軍厚木基地から空母艦載機部隊が移転してくる計画がある。こうした状況への根強い不安が、次第に置き去りにされていないか。

 きのう最高裁判決が出た厚木基地の騒音を巡る訴訟とも、深く関わる話である。将来分の賠償を認め、深夜・早朝の自衛隊機の飛行を差し止めた東京高裁の司法判断を退けた。原告側が勝ち取ったのは過去の騒音被害に対する賠償のみだ。

 深刻な騒音を思えば国の賠償責任が生じるのは当然であり、各地の基地訴訟で同様の判例が定着したことは意味がある。しかし、賠償金を払えば日米地位協定に守られた米軍がどんな飛び方をしてもいいと、日本政府が開き直るのなら許し難い。

 厚木基地周辺の住民が懸念するのは騒音だけではない。77年には空母艦載機が横浜市の住宅地に墜落して母子3人が死亡した悲惨な事故があり、厚木からの部隊移転の一つの契機になったことを忘れてはならない。岩国へ負担のたらい回しを図る国は騒音以外のリスクも直視し、少なくとも米軍機の運用には厳しい姿勢を取るべきだ。

(2016年12月9日朝刊掲載)

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