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連載・特集

[Peaceあすへのバトン] フリーアナウンサー・久保田夏菜さん、カンボジアの今 伝える

 心が動いたあの瞬間が、カンボジアへの活動に導いてくれました。一つは、現地の地雷を撤去する元自衛官の高山良二さん(69)=愛媛県砥部町=と知り合った時。もう一つは、現地の子どもに会い、いとおしさを感じた時。彼らの笑顔がずっと続くよう、現状を伝える決意をしています。

 きっかけは2010年春、高山さんの本を読んだことでした。タイとの国境に近い村で、内戦時に埋められた地雷を住民と取り除きながら復興を目指す内容。感銘を受けました。同時に、「なぜ他人のために人生をささげられるんだろう」と疑問が湧きました。

 高山さんに初めて会った時、疑問をぶつけると、「よく分からない。気になるのなら村においで」との答え。関心を持ったことは自分の目で確かめるのがモットーです。覚悟を決め、その年の夏休みに向かいました。

 元気で陽気な住民に驚きました。「地雷におびえ、振り回されているのでは」という先入観と真反対。高山さんの開く日本語教室に通う子どもがノートにいっぱい質問を書いて話し掛けてきます。出会うまで「かわいそう」と思っていた自分が申し訳なく、涙があふれました。この場所を大切にしなきゃ―。また来ようと決めました。

 帰国後、カンボジアの特集を定期的に作り番組で放送しました。アナウンサーとしてできることは「伝える」ことだったからです。職場を広島に移した後も村には通い、計7回行きました。

 内戦の爪痕は日常に溶け込んでいます。地雷がジャングル、畑、家の周り…と至る所にあるのは、当時の兵士が「家族や自分を守るため」に仕掛けたから。高山さんが理事長を務めるNPO法人が撤去している場所の近くでは、女性たちがおしゃべりし、子どもが自転車で通学する風景が見られます。地雷で両足を失った男性は自殺も考えたそうですが、家族のために生きる道を選び、義足を使って果物を栽培し、生計を立て直しました。

 被爆地広島もきっと数十年前はこんな光景だったのかなと思います。復興を遂げた今、私たちは平和の大切さを忘れがちですが、カンボジアを見れば今の平和をどうやって未来に引き継ぐことができるか、考える機会を得られるはずです。

 高山さんのNPO法人の広島支部長になり、講演活動をしています。地雷を取り除いた畑で栽培したキャッサバを原料にした焼酎ができました。日本へ輸出できるよう手続きを進めています。雇用を生み、収益は住民に還元されます。世界に発信することで彼らの誇りや自信にもつながっていきます。(文・山本祐司、写真・今田豊)

くぼた・かな
 広島市安佐北区出身。安古市高、広島大卒。アナウンサーを志望し、2009年にテレビ愛媛(松山市)入社。13年から16年春まで中国放送(広島市中区)勤務。現在はフリー。西区在住。

(2016年12月13日朝刊掲載)

【編集部から】
 久保田さんが現地で活動している写真10枚を掲載しています。写真はいずれも久保田さんから提供していただきました。

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