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福島の甲状腺がん 議論 内部被曝考えるワークショップ 広島 

 原爆さく裂時のように外部から放射線を浴びるだけでなく、放射性微粒子を体内に取り込んだりする「内部被曝(ひばく)」はどれほど影響するのか、考えるワークショップが広島市の南区民文化センターであった。東京電力福島第1原発事故による福島の子どもの甲状腺がん多発の有無を巡り、専門家同士が異なる意見をぶつけ合った。(金崎由美)

 福島県が事故時に18歳以下だった人を中心に約30万人に実施している甲状腺検査の直近のデータでは、174人の甲状腺がん(悪性の疑い含む)が見つかっている。岡山大の津田敏秀教授(疫学)は「多発だ」としたが、北海道がんセンター(札幌市)の西尾正道名誉院長は、検査により前倒しで見つかる「スクリーニング効果だ」と異を唱えた。ただ両氏とも、被曝線量と病気の関係が軒並み過小評価されている、という見解では共通していた。

 津田氏は、福島県のデータを国立がんセンターの全国データと比較し、発生率が「原発に近い地域は40倍多い」と指摘。「因果関係自体は目に見えない。まずは結果として起こっていることをデータから読み取らないと、かつての公害病のように対策は後手に回る」と批判した。

 また「多発をできるだけ見せないようにしている。背景にあるのは、被曝線量が100ミリシーベルト以下だとがんは出ないか、あっても分からない程度、という『神話』だ。専門家は、日本国内でこれを持ち出しながら、海外では『これ以下は大丈夫、というしきい値はない』と使い分けている」と強調した。

 西尾氏は、放射線を発する物質を体に埋め込んでがん病巣だけを破壊する、いわば内部被曝を逆手に取る治療の第一人者として議論した。

 国際放射線防護委員会(ICRP)の適用する線量評価が、体の一部だけの被曝でも全身に平均化して計算していることから「影響の過小評価だ」と批判。「問題は放射性微粒子。肺胞などにとどまれば近くの正常な細胞がものすごく被曝する」と指摘した。福島でも、放射性セシウムによる長期的な健康影響について深い懸念を示した。

 だが甲状腺がんに限っては、「チェルノブイリ原発事故と比べた子どもの甲状腺の内部被曝線量や、甲状腺の性質を考えると、急激にがんが大きくなることは考えられない」と断言。福島の市民グループに協力して子どもの甲状腺検査を続けている経験などから、「検査で見つかる嚢胞(のうほう)は子どもの成長段階の現象かもしれない」という仮説を示した。

 ワークショップは広島大の研究者らが主催し、市民を含む約70人が参加した。原爆投下の後に入市した人たちの死亡率が高いという記録から、被爆者の内部被曝について共同研究している大瀧慈名誉教授(計量生物学)は「福島第1原発事故から6年となる来年、各地に自主避難している人たちへの支援策の多くが打ち切られる。被爆地から原発事故の影響と向き合う機会としたい」と話していた。

(2016年12月13日朝刊掲載)

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