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社説・コラム

『記者縦横』 「伊方30キロ圏」戸惑う島

■柳井支局・井上龍太郎

 1日3往復の定期船で30分。山口県上関町沖に浮かぶ八島は、周辺の島々と比べてもひときわ穏やかだ。耳に入るのは、波音と野鳥のさえずりだけ。島民から伝わる古里愛が、心地よさをいっそう高めてくれる。

 一方で、島は別の顔を持つ。海を隔てた佐田岬半島にある四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)。中国地方で唯一、半径30キロ圏に掛かる。2013年からは県と町による年1回の原子力防災訓練の舞台となった。

 住民28人の9割は65歳以上だ。福島第1原発事故の前まで、山の裏の方角にある伊方原発を気にしない暮らしだった。事故で意識が変わったかといえば、大方がそうではない。急きょ突き付けられた「30キロ圏」への戸惑いが強いようだ。

 「わしらもう年だから」「これまでと何も変わりはせん」。平穏な日常を大切にし、不安は二の次。そうした考え方もあると学ばされる。ただそこに、八島が今なお蚊帳の外に置かれている現実がある、とも。

 8月に迎えた伊方原発3号機の再稼働。島にはどの機関からも連絡がなかった。「新聞かテレビで知るだけ」。住民の一人はこぼす。行政や電力会社からの情報提供は、福島原発事故後もつたない。

 この夏、福島県双葉町を福島の事故で去った男性に会った。男性には事故後に生まれた息子が2人。古里を奪われ、連れて行けない無念さをにじませた。

 八島にとっても決して人ごとではないはずだ。確かに伝え方に配慮は必要だろう。だが、事前の情報も十分に届かず振り回されるだけであれば、あまりにひどい。

(2016年12月16日朝刊掲載)

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