×

社説・コラム

社説 オスプレイ大破 地元沖縄の懸念 現実に

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に所属する垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが名護市辺野古沖の浅瀬に落ちて大破した。恐れていた重大事故が、日本でも現実のものになった。

 米軍は「コントロールを失った状況ではなく自発的な着水」として「不時着」と発表した。プロペラや翼がへし折れ、胴体がちぎれた無残な光景とは隔たりがある。詭弁(きべん)としか言いようがない。集落や市街地で起きていたらと思うと背筋が凍る。

 事故を起こしたのは普天間に拠点を置く海兵隊の24機のうち1機で、空中給油訓練の途中、プロペラが給油ホースに当たって安定を欠いたらしい。「機体に問題はない」と事故翌日に早々と説明したが、地元に十分な情報を出さない従来の米軍の姿勢とは異なるように思える。

 沖縄では米軍北部訓練場の一部返還が22日に迫る。その条件として日本側が建設中のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)でもオスプレイの運用を想定しており、事故の波紋を小さくするために一定の説明を余儀なくされたのかもしれない。

 だが機体に差し障りがなくとも「うっかりミス」で済ますわけにはいかない。オスプレイは操縦の難しさからも安全性への疑念が拭えない。今回のように人為的な要因で事故を誘発するとすればやはり心配だ。事故後に運用を一時停止しているが、地元の理解が得られないなら訓練自体を中止すべきだろう。

 米軍から聞き捨てならぬ発言も出た。県民に代わって抗議した沖縄県の副知事に向かい、在沖縄米軍のトップが「パイロットは県民に被害を与えなかった。感謝されるべきだ」などと激高したという。怒りや不安が渦巻く住民の胸の内を無視した暴言と言わざるを得ない。「植民地意識丸出し」と副知事が批判したのも当然だろう。

 稲田朋美防衛相も米側に原因究明や情報公開を型通り求めるのでは能がない。日本の領土、領海での捜査や原因究明を阻む「壁」である日米地位協定の見直しを働き掛ける必要がある。その点、合同検証を求めた海上保安庁は筋が通っている。

 オスプレイは開発段階から事故が頻発しながら、米側の「安全」宣言をうのみにして日本が4年前、普天間配備を受け入れた。墜落の恐れが大きい飛行モードを制限する覚書は、ほごも同然だ。今月も沖縄県北部の民家上空でオスプレイによる物資のつり下げ訓練が繰り返され、不安が高まる中の事故である。

 安倍政権が事あるごとに口にしてきた「基地負担の軽減」が軽視されている内実を露呈したともいえよう。

 北部訓練場の部分返還の記念式典を、日米両政府は官邸で予定している。このままでは沖縄の県民感情を逆なでするのは明らかだ。

 沖縄だけではない。海兵隊のオスプレイは岩国基地に頻繁に飛来しており、岩国市や山口県が原因究明と再発防止策の徹底を求めた。横田基地は空軍のオスプレイが配備される予定だ。さらに陸上自衛隊にも17機を佐賀空港に配備する計画があり、千葉県の木更津駐屯地には日米の整備拠点が置かれるという。

 こうした計画を、日米両政府はいったん白紙に戻すことを考えるべきだ。この事故の持つ意味は、それほど大きい。

(2016年12月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ