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友好の歩み 長門から 日露首脳会談 高まる期待

 安倍晋三首相(衆院山口4区)がロシアのプーチン大統領と地元の山口県長門市で会談した15日、会場の大谷山荘がある湯本温泉周辺では警察官が各地で検問をするなど、市内は厳戒態勢となった。日露戦争で亡くなった日本人とロシア人の兵士の墓には、地元住民たちが訪れた。市内の小中学校では給食にロシア料理が提供され、子どもたちが味わった。プーチン氏が乗った特別機は、予定時刻を大幅に遅れて山口宇部空港(宇部市)に到着し、沿道では多くの人が出迎えた。

両国兵士の墓

慰霊と平和祈り献花 首相の妻昭恵さん

 首脳会談に先立つ15日午前、長門市通(かよい)の海岸にある日ロ両国の兵士の墓を、安倍首相の妻昭恵さん(54)が初めて訪れた。墓前に手を合わせ、慰霊を続けてきた地元住民と共に両国の友好を願った。

 昭恵さんは大西倉雄市長と、日本海に向かって立つ2基の墓に献花した。かつて祖父が漂着したロシア兵の遺体を引き揚げたという君川歌子さん(79)たち地元住民から建立の由来も聞いた。

 昭恵さんは記者団に、「敵国の兵士の遺体を引き揚げ、慰霊を続けてきたことは、命を区別しない日本人の美しい精神の表れ。誇りに思う」と強調。「ロシアの方にも知ってほしい」と話した。近くの通公民館での歓迎行事では住民約30人と意見を交わした。

 この海岸には、日露戦争時に沖合で撃沈された大型貨客船「常陸丸(ひたちまる)」に乗っていた日本兵と、海戦で命を落としたロシア兵が漂着した。住民がそれぞれ墓をつくり、今も年1回の慰霊祭を開催。ことし11月には、住民と市が墓の説明板を設置していた。

 この日も墓の清掃をした君川さんは「今回の会談が、両国の平和につながってほしい」と願っていた。(長久豪佑)

山口宇部空港

「寒いから暖かい服を」 知事、プーチン氏から言葉

 山口県の村岡嗣政知事は岸田文雄外相たちとともに、宇部市の山口宇部空港でプーチン大統領を出迎えた。

 午後5時すぎ、特別機のタラップを下りてきたプーチン氏に、「県民を代表して、心から歓迎する」と日本語であいさつして握手した。村岡知事はスーツ姿でコートを着ていなかったため、「寒いから暖かい服を着てくださいね」との言葉を掛けられたと、笑顔で話した。

 首脳会談について、「戦後71年、解決していない大きな課題もある。一歩でも二歩でも前進して、両国の発展につなげてほしい」と期待した。(川村奈菜)

市民受け止め

地元認知度アップ願う 到着遅れに疲労の色も

 長門市では、地元での日ロ首脳会談の開催を市民が歓迎した。プーチン大統領の到着が大幅に遅れるハプニングもあったが、同市の認知度アップや会談の成功を願った。

 長門やきとり横丁連絡協議会の青村雅子会長(51)は報道関係者が集まったルネッサながと(同市仙崎)で焼き鳥約400本を振る舞った。「長門の食を広める機会。ロシアでも焼き鳥を広めたい」と意気込んだ。

 シベリア抑留を経験し、3年前に亡くなったという河田収蔵さんの妻(81)は「夫が生きていたら、会談をどう思ったか。いい方向に話がまとまれば」と、市役所そばの勤め先の店舗で話した。

 大統領の到着が大幅に遅れ、歓迎に向かう市民が待機する同市深川湯本の市長門農業者トレーニングセンターでは、車の中で待ちくたびれる人の姿も。同市三隅の田原文子さん(67)は「娘とプーチン大統領を一目見たくて来たのだが」と少し困った顔を見せていた。(原未緒)

(2016年12月16日朝刊掲載)

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