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社説・コラム

天風録 「日露首脳会談」

 「遅いぞ武蔵」。山口県だけに、名せりふが頭をよぎった人もいよう。巌流島ならぬ、長門市の温泉旅館に安倍晋三首相を待たせ、プーチン大統領は2時間余り遅れた。シリア問題が理由というが得意のじらし戦術との見方も▲北方領土問題を含めて日ロの未来を占う会談が幕開けした。思えば山口は日本人の記憶に刻まれる数々の歴史の舞台になってきた。外交の真剣勝負は日清戦争後の下関講和条約が交わされて以来、121年ぶりという▲長州の地が起点となった日本の近代化はロシアとの関係抜きに語れない。樺太千島交換条約、日露戦争、第2次世界大戦―。度重なる両国間の領土の変遷はある意味、欧米列強を追い掛けた道のりとも重なる▲ロシアの賓客だけにきのうは冬将軍も伴ったが、厳戒の中で歓迎一色だった。肝心の会談は平和条約や4島の共同経済活動に踏み込んだらしい。むろん戦後71年の重みを考えると剣のようにすぐ勝負がつくはずはない▲明治の近代化で難関の外交課題が列強の治外法権の撤廃だった。道筋を付けた一人が長州出身の青木周蔵である。先人のごとく首相は新たな歴史を刻めるかどうか。じらされたとしても焦りは禁物だろう。

(2016年12月16日朝刊掲載)

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