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連載・特集

追跡2016 中国地方の現場から 映画で活気 地元が舞台 住民喜び

 地元に関連した映画の話題が豊富な一年だった。戦時下の呉、広島の日常を描いた片渕須直監督のアニメーション「この世界の片隅に」は公開1カ月を過ぎた今も動員好調で、異例のヒット。サポートしてきた地域住民らに喜びが広がる。

 戦況が悪化する中でもひたむきに生きる庶民や当時の風景を細やかに伝える作品。「かつての暮らしぶりがリアルによみがえった。広島に宝物ができた」と、映画ファンの一人として広報などを手伝った広島市南区の友川千寿美さん(64)。上映館も拡大し、動員は18日までに52万人、興行収入は7億円を突破。海外15カ国での上映も控える。

ロングラン上映

 市制100周年の福山市では「探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海」が祝賀ムードを盛り上げた。同市出身のミステリー作家、島田荘司さんが故郷を舞台に執筆した小説が原作。地元企業が制作委員会を組織し、延べ600人の市民エキストラが参加した。6月から半年、ロングラン上映し、観客は広島県内で4万人を超えた。

 ほかにも、地元の風景や人物を扱った作品が銀幕をにぎわせた。沖田修一監督「モヒカン故郷に帰る」はのどかな瀬戸内が舞台で、呉市の安芸灘諸島でロケ。29歳で早世した広島県府中町出身の棋士、村山聖が、松山ケンイチさん主演の「聖の青春」で再び脚光を浴びた。

出身監督も活躍

 出身監督の活躍も目立った。広島市出身の杉野希妃さん監督、主演の「雪女」は東京国際映画祭のコンペティション部門で、98カ国1502作品の中からノミネート16作品に入った。同市出身の西川美和監督は「永い言い訳」で確かな実力を示した。「ケンとカズ」で長編デビューした三次市出身の小路(しょうじ)紘史監督は、新人に贈られる新藤兼人賞の銀賞に輝いた。

 邦画と洋画を合わせた今年の国内興行収入は過去最高を更新する見込みだ。「君の名は。」が200億円、「シン・ゴジラ」が80億円を超えてけん引したが、地方のさまざまな動きも活況を支えていると実感する。

 地元ゆかりの作品の発信も意識した映画祭では、前身から数えて8回目の広島国際映画祭(広島市)が「ヒロシマ平和映画賞」を新設し、「この世界の片隅に」に贈った。しまね映画祭(島根県内)は25回、岡山映画祭(岡山市)は10回の節目、周南「絆」映画祭(周南市)も7回目を迎えた。

 広島国際映画祭の代表を務める江田島市の部谷京子さんは、映画美術監督としての業績が認められて紫綬褒章を、広島市中心部で映画館「八丁座」「サロンシネマ」を営む蔵本順子さんは藍綬褒章を受章。映画界に地道に貢献してきた人に光が当たった年でもあった。(余村泰樹)

映画「この世界の片隅に」
 広島市出身の漫画家こうの史代さんの同名漫画が原作。インターネット上で資金を募るクラウドファンディングで全国3374人から計約4千万円が集まり、製作を後押しした。呉市立美術館が原画展を開くなど地元が連携して盛り上げた。

(2016年12月20日朝刊掲載)

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