社説 「辺野古」最高裁判決 地方の意思は度外視か
16年12月21日
「憲法の番人」の代名詞に自ら泥を塗ったのではないか。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事を国が訴えた訴訟の上告審判決できのう、最高裁は知事の上告を退け、県の敗訴が確定した。
辺野古移設に反対する沖縄の意思は、度重なる選挙で示されてきた。にもかかわらず、民意を無視するような政府の対応を司法が追認したといえる。あまりに不条理といえよう。
司法判断が初めて確定したものの、問題は片付かない。翁長知事は「あらゆる手段で新基地建設を阻止する」と、今後も対抗策を取る考えを示している。政府が移設へと突き進めば、溝が一層深まるのは間違いない。
訴訟の争点は、翁長知事が辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消したことの適否だった。最高裁は、9月の福岡高裁那覇支部の判決内容をほぼ維持。「仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事の埋め立て承認に不合理な点はない」と認定し、取り消した翁長知事の対応を違法と結論付けた。
さらに、国が地方自治体に対し、是正を指示することも適法と認めた。
1999年の地方自治法改正で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと転換した。対等になった国と地方が争う訴訟で、最高裁が判断を示す初めてのケースとして注目されていた。
しかし、憲法が保障する地方自治の権能を巡り、沖縄県が「民意に反する新基地建設の強行は違憲」とした訴えについては、審理の対象としなかった。最高裁が具体的な判断を示すことなく門前払いとした対応は、地方自治の軽視と受け止められても仕方ないだろう。
また、高裁判決は、移設先は「辺野古が唯一」とし、米軍基地を沖縄に置く「地理的優位性」も認める異例の内容だった。司法の公平性を欠いていると批判され、最高裁での見直しは不可避と指摘されていたものの、今回の判断では、ひと言も触れなかった。
これでは、安全保障や外交に関わる問題で、地方自治体の意思を無視することが許される解釈がまかり通ってしまうのではないだろうか。
翁長知事も、「国と地方を対等・協力の関係とした地方自治法の視点が欠落した判断だ」と最高裁を批判した。今後、地方と国の関係に及ぼす影響が懸念される。
沖縄で22日に式典が行われる本島北部の米軍訓練場の返還も、政府は「沖縄復帰後、最大の返還」と負担軽減を強調している。しかし、返還条件として集落を囲むように建設されたヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)では、重大事故を起こしたばかりの垂直離着陸輸送機のオスプレイが運用される。
事実上は米軍基地の機能強化と言うべきで、一連の動きは民意を踏みにじるものと言わざるを得ない。地元の理解なしには基地はあり得ない。政府には、対話の糸口を探る姿勢が求められる。
本土でも今後、原発の再稼働などの問題で、地方の民意と国の論理とが真っ向からぶつかり、司法の場で争うケースが予想される。沖縄を孤立させるわけにはいかない。
(2016年12月21日朝刊掲載)
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事を国が訴えた訴訟の上告審判決できのう、最高裁は知事の上告を退け、県の敗訴が確定した。
辺野古移設に反対する沖縄の意思は、度重なる選挙で示されてきた。にもかかわらず、民意を無視するような政府の対応を司法が追認したといえる。あまりに不条理といえよう。
司法判断が初めて確定したものの、問題は片付かない。翁長知事は「あらゆる手段で新基地建設を阻止する」と、今後も対抗策を取る考えを示している。政府が移設へと突き進めば、溝が一層深まるのは間違いない。
訴訟の争点は、翁長知事が辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消したことの適否だった。最高裁は、9月の福岡高裁那覇支部の判決内容をほぼ維持。「仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事の埋め立て承認に不合理な点はない」と認定し、取り消した翁長知事の対応を違法と結論付けた。
さらに、国が地方自治体に対し、是正を指示することも適法と認めた。
1999年の地方自治法改正で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと転換した。対等になった国と地方が争う訴訟で、最高裁が判断を示す初めてのケースとして注目されていた。
しかし、憲法が保障する地方自治の権能を巡り、沖縄県が「民意に反する新基地建設の強行は違憲」とした訴えについては、審理の対象としなかった。最高裁が具体的な判断を示すことなく門前払いとした対応は、地方自治の軽視と受け止められても仕方ないだろう。
また、高裁判決は、移設先は「辺野古が唯一」とし、米軍基地を沖縄に置く「地理的優位性」も認める異例の内容だった。司法の公平性を欠いていると批判され、最高裁での見直しは不可避と指摘されていたものの、今回の判断では、ひと言も触れなかった。
これでは、安全保障や外交に関わる問題で、地方自治体の意思を無視することが許される解釈がまかり通ってしまうのではないだろうか。
翁長知事も、「国と地方を対等・協力の関係とした地方自治法の視点が欠落した判断だ」と最高裁を批判した。今後、地方と国の関係に及ぼす影響が懸念される。
沖縄で22日に式典が行われる本島北部の米軍訓練場の返還も、政府は「沖縄復帰後、最大の返還」と負担軽減を強調している。しかし、返還条件として集落を囲むように建設されたヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)では、重大事故を起こしたばかりの垂直離着陸輸送機のオスプレイが運用される。
事実上は米軍基地の機能強化と言うべきで、一連の動きは民意を踏みにじるものと言わざるを得ない。地元の理解なしには基地はあり得ない。政府には、対話の糸口を探る姿勢が求められる。
本土でも今後、原発の再稼働などの問題で、地方の民意と国の論理とが真っ向からぶつかり、司法の場で争うケースが予想される。沖縄を孤立させるわけにはいかない。
(2016年12月21日朝刊掲載)