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社説・コラム

『潮流』 パールハーバーって何?

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 「何てことだ。これじゃ、パールハーバー(真珠湾攻撃)と同じじゃないか」

 「パールハーバーって何だっけ?」

 「知ってるだろ。ベトナムが攻撃してきて、米国をベトナム戦争に巻き込んだ、例のあれだよ」

 2001年の米中枢同時テロ直後のニューヨークで男性2人が交わした会話である。歴史研究者の堀田江理さんが著書「1941 決意なき開戦」のあとがきで、そんなエピソードを米国の歴史書から引用している。

 確かにパールハーバーを思い出した米国人は多かっただろう。ただ60年も前のこと、あやふやな知識しかない人もいた様子がうかがえる。では60年後、2016年はどんな年だと評されるのだろうか。

 ヒロシマにとって、まず思い浮かぶのはオバマ米大統領の被爆地訪問だろう。米国の現職大統領では初めてだけに、オバマ氏も掲げる「核なき世界」を訴えてきたヒロシマに追い風が吹いたように感じたのは錯覚ではなかった。

 それとも、「核兵器禁止条約」制定交渉を始めるよう定めた決議案の国連の委員会での採択が、歴史に残るのだろうか。投票国の7割近くが賛成する中、日本政府は反対した。国際社会がどちらに向いているか、はっきり示されただけに信じられない。

 今年は北朝鮮の核実験や、各地のテロや紛争もやまなかった。加えてオバマ氏の後任にトランプ氏が選ばれたことで世界はますます不透明になっていきそうだ。不安に思う人は少なくあるまい。

 広島・長崎には何ができるのだろうか。きのこ雲の下で何が起きたのか、今までにも増して国内外に発信し、若い世代に継承していく地道な取り組みしかあるまい。核廃絶への転機となった年として2016年を歴史に残すためにも不可欠だ。年の瀬を前に、あらためて思う。

(2016年12月22日朝刊掲載)

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