×

ニュース

現場発2016 原発安全対策 地元に重荷 松江市 使用済み核燃料「追い出し税」一時検討

中電や3市に困惑も

 島根県が中国電力島根原発1号機(松江市鹿島町)の核燃料税について、廃炉作業中も課税できるよう中電と協議を続けている。一方、同市の松浦正敬市長は、燃料プールに残る使用済み核燃料を早期に敷地外へ搬出させるため、独自課税を検討したが、断念。背景には使用済み核燃料も含め、廃炉に伴う廃棄物への安全対策を講じ続けなければならない自治体の実情がある。(秋吉正哉)

 「廃炉となっても核燃料が残る。これまでと同様、経費もかかるので、電力会社に負担してもらう必要がある」。島根県の溝口善兵衛知事は、11月上旬の会見で説明した。2015年4月末で廃炉となった島根1号機は、具体的な工程を示す廃止措置計画が原子力規制委員会に認可された時点で課税できない。県は、中電の同意が得られれば、課税に向けた関連条例の一部改正案を次の県議会定例会にも提案したい考えだ。

 溝口知事の4日前に会見した松浦市長は、使用済み核燃料への独自課税を断念する考えを表明。ことし3月、早期搬出を促すための「追い出し税」として検討していることを明らかにしたが、県や原発30キロ圏の県内の周辺自治体には困惑が広がった。

 ある県幹部は、松浦市長がかつて市議会の答弁で言及した内容などを念頭に「独自課税の意向はあると認識していた」とするが、「事前の相談もなく、唐突な表明だった」と首をかしげる。同市が協議入りしたのと同じ7月15日、県は1号機の核燃料税継続を中電に申し入れたが、目的はあくまで使用済み核燃料などへの対策としていた。

県に歩み寄る形

 現在、県が徴収している核燃料税は松江市に加え、出雲、安来、雲南市に交付金として配分されているため、3市からは「松江市独自の課税には違和感がある」との異論が続出。関係者によると、中電も県と市の双方から課税に応じるのは困難との反応だったため、調整の末、市が県に歩み寄る形となった。

 松浦市長はそれでも「われわれの趣旨が生かされることになった」との見方を示す。市、県の協議の結果、県は1号機分の核燃料税の全額を停止中でも原子炉の出力に応じて課税する「出力割」とし、廃炉作業が進めば税率の引き下げを検討する余地を残す予定。中電が廃炉作業を進めれば、年間約4億5千万円と見込まれる負担が軽減される仕組みとなった。

 ただ、県幹部は「こちらは追い出し税という考え方は最初からしていない。変わってもいない」と強調する。実際、核燃料税の条例をことし改正した福井県では、使用済み核燃料に課税する「搬出促進割」を導入したが、島根県は見送る方針。「税率引き下げの可能性は、使用済み核燃料や廃棄物が減れば行政の対応も減るため。危険なものがあるという現実への対策が必要という考え方で県は一貫している」

順番待ちの懸念

 では、市はなぜ追い出し税にこだわったのか。市幹部は「内部で検討を進める中、確実に搬出されるか懸念が強まった」と明かす。中電が搬出先と想定する青森県六ケ所村の再処理工場は、稼働時期を20回以上延期。全国でも原発の廃炉が相次ぐ中、搬出が「順番待ち」となる可能性もある。「敷地内に置く意味がないものは出さなければならない。市民にとって当然のことでも、実際に主張しなければならないというのが市長の考えだった」

 ただ、2号機の再稼働を目指す中電は、立地自治体の理解を得るためにも、1号機の核燃料税については、慎重に協議を進めるとみられる。使用済み核燃料の処理という国の動向をにらみながら、立地自治体と電力会社の交渉の着地点ははっきりと見えていない。

核燃料税
 原発の安全対策などのため、立地自治体が電力会社に課す税。原発の長期停止が続く中、安定した収入が見込めるよう制度を見直す自治体が相次いでいる。島根県は1980年以降、2015年度までに中電から計約171億400万円を徴収。15年4月から、税率を燃料棒価格の13%から17%に引き上げ、半分を停止中も出力に応じて課税する出力割にしている。

(2016年12月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ