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社説・コラム

天風録 「殺人ロボ」

 人情味ある漫画の名手がいる。業田良家さん。連作短編「機械仕掛けの愛」は心を持ったロボットたちが主役だが、深く考えさせられる一作がある。ある国で反政府軍を掃討したロボが敵に渡り、今度は大統領一派を皆殺し▲もう人間の命令を聞くのは嫌と自爆する結末がやるせない。現実の世界でも完全自立型兵器、つまり殺人ロボット実用化への動きは水面下で進む。業田さんが描くものと違い、どんな残虐な指示も悩むことはなかろう▲今のうちに歯止めを、と心ある人たちが国連で動きだした。来年には専門家の会議が置かれる運びだが、日本は規制に後ろ向きらしい。民生用ロボットの開発に差し障るとの理由からだ▲先々の配備も見据えてか、米国が相当に嫌がっているという。またも同盟国へのお付き合いが本音だとすれば情けない。日本の国連加盟から60年。「戦争の惨害から将来の世代を救う」と国連憲章で力強くうたう重みを、あらためて思い起こしたい▲文化庁からも賞を受けた漫画は最新刊の寓話(ぐうわ)がさらに深い。責任を取りたくない人間に代わり、核のボタンを押させる大統領ロボットが開発される―。全くの絵空事だと笑い飛ばせるだろうか。

(2016年12月22日朝刊掲載)

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