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追跡2016 中国地方の現場から オバマ米大統領の広島訪問 核問題へ関心高める

 原爆で消えた町の上に初めて立った米国の現職大統領の声が重く、響いた。「核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」。5月27日夕、広島市中区の平和記念公園。オバマ氏は被爆71年のヒロシマにその足跡を残した。

 核問題への関心が高く、大統領として2009年11月に初来日した時に、被爆地訪問の意欲を口にした。10年の原爆の日の平和記念式典に、駐日大使を初めて派遣。16年4月にはケリー国務長官が外相会合に出席する形で広島に。周到に布石を打ち、日米両国内の反応をみて、現職大統領として初となる被爆地訪問を決断したとみられる。

謝罪の言葉なし

 米政権が慎重になる背景には、原爆投下を正当化する米国内の根強い考えがある。日米両政府は訪問を発表すると同時に、目的として犠牲者の追悼と未来志向の意義を強調し、「謝罪外交」を打ち消してみせた。

 そして「5・27」。オバマ氏は原爆慰霊碑に花輪を手向け、目を閉じた。自ら筆を入れたという、詩的表現を織り込んだヒロシマ演説は、予想を上回る17分に及んだ。被爆者の代表と言葉を交わした。人間らしい振る舞いを市民も歓迎した。ただ、大統領として謝罪の言葉はなかった。

 7月に中国新聞の単独インタビューに応じたオバマ氏の最側近、ベン・ローズ大統領副補佐官は「広島訪問から導き出される軍縮の追求という道徳的な使命」を演説に込めたと明かし、訪問を「成功」と評した。被爆地と核問題への関心を国内外で高める好機にはなった。しかし、「歴史的訪問」の評価はなお定まらない。理由はもう一つ。その後の核軍縮の停滞だ。

軍拡競争の恐れ

 ヒロシマ演説は核軍縮策に踏み込まなかった。それでも7月に、オバマ政権が核兵器の使用を核攻撃の反撃のみに限る「先制不使用」宣言を検討していると米メディアで伝えられると、被爆者たちは期待を高めた。核保有国間の警戒態勢が緩和され、誤った発射の危険性が下がるためだ。

 だが、実現はしていない。11月の大統領選で共和党のトランプ氏が勝利し、宣言が引き継がれる見通しが暗い上、核抑止力の弱体化を懸念する日本など同盟国の反対論にも押された。

 10月の国連総会第1委員会(軍縮)で採択された、来年に「核兵器禁止条約」制定に向けた交渉会議を開く決議案に米国は反対し、北大西洋条約機構(NATO)諸国に同調圧力をかけた。日本も足並みをそろえた。トランプ氏は今月22日、核戦力を強化する考えをツイッターで投稿し、次期政権がロシアとの軍拡競争に向かう恐れすらある。

 近く、日米の首脳がハワイの真珠湾に立つ。オバマ氏の広島訪問に対する安倍晋三首相の「返礼」という見方がある中、2人は核兵器の廃絶と恒久平和の道筋を確かにするメッセージを発するのか。年の瀬のヒロシマも注目している。(岡田浩平)=おわり

オバマ米大統領の広島訪問
 オバマ氏は5月27日午後5時24分、広島市中区の平和記念公園に到着。原爆資料館東館で犠牲者の遺品のほか、被爆して10年後に白血病で亡くなった佐々木禎子さんの折り鶴を見た。招かれた小中学生2人に、持ち込んだ折り鶴を1羽ずつ手渡し、芳名録にも2羽を添えた。原爆慰霊碑の献花、碑前での演説には日米両政府の招待者ら約100人が立ち会った。原爆ドームを対岸から眺めるなどして、午後6時16分に公園を後にした。

(2016年12月25日朝刊掲載)

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