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地域経済2016 外国人観光客の増加 オバマ氏の訪問追い風

 世界遺産の原爆ドームがある平和記念公園(広島市中区)には今年、季節を問わず外国人観光客が押し寄せた。中国運輸局によると、1~9月に広島県内で宿泊した外国人は延べ65万4100人。前年同期より21%増え、伸び率は全国平均を約10ポイント上回っている。

 5月のオバマ米大統領の広島訪問が世界の注目を集め、旅行業界も外国人客の誘致を強化した。

 最大手のJTBグループ(東京)は7月と11月、海外から旅行業者を招いて平和記念公園や宮島(廿日市市)の視察会を開催。日本ツアーに広島観光を組み込むよう提案した。米コロラド州の旅行会社のリサ・クラークソンさん(50)は「もともと被爆地広島の今を見たい米国人は多い。オバマ効果で外国人客はもっと増えるだろう」と話した。

 外国人客の増加は、市内のホテルの稼働率や宿泊料金を押し上げた。リーガロイヤルホテル広島(中区)は4~11月、外国人の宿泊客が前年同期を1割上回り、平均稼働率は90%弱と過去最高だった。ホテルグランヴィア広島(南区)の稼働率は90%を超えた。

 各ホテルは高級フロアや和風のスイートルームを新設するなど、外国人の富裕層にアピールを強めた。グランドプリンスホテル広島(同)は4月、台湾人スタッフ2人を正社員に採用し、きめ細かい対応をしている。

 広島市中心部では、東洋観光(西区)やマリモ(同)などのホテルの新設計画が相次いで浮上した。10月には、アパグループ(東京)が南区のJR広島駅前に、中四国最大のビジネスホテルを開業。元谷外志雄代表は「広島は欧米系の観光客数が突出している。格安航空会社(LCC)が増えれば外国人はさらに増える」と言い切った。

 ただ広島を訪れる外国人のうち、宿泊するのは半分以下とみられる。大規模な国際会議を開くには宿泊施設が十分ではないという指摘もある。中国運輸局の鵜沢哲也局長は「外国人旅行者の消費額はまだ少ない。各機関が連携し、周遊型の観光を定着させる必要がある」と気を引き締める。

 広島、山口、岡山など瀬戸内の7県と、JR西日本や大手旅行会社などでつくるせとうち観光推進機構が3月に発足。官民が広域で連携して、観光を振興する仕組みづくりは進んだ。今の追い風を将来にどうつなげるのか。その実行力が問われる。(桑島美帆)

(2016年12月23日朝刊掲載)

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