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赤十字国際委 季刊誌で特集 核の非人道性 被爆証言や広島との縁紹介

 赤十字国際委員会(ICRC、本部スイス)が英文季刊誌「国際赤十字レビュー」で核兵器の非人道性を論じる452ページの特集を組んだ。来年には日本語版も出す。連動して掲載記事を活用したスマートフォンやタブレット端末向けのウェブページも作成。来年春には国連で核兵器禁止条約の交渉が始まることから、編集部は「核兵器がもたらす被害と国際法上の問題を理解するのに各国で役立ててほしい」としている。(金崎由美)

 同誌のビンセント・ベルナール編集長が昨年2月に広島と長崎を訪れて取材した山本定男さん(85)=広島市東区=ら被爆者3人の証言を載せている。ICRCのペーター・マウラー総裁と日本赤十字社の近衛忠煇社長が対談。中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターの宮崎智三センター長は、社員の3分の1に当たる114人が犠牲となった社の歴史や平和報道の意義を記す。外交官や国際法の専門家たちも多く寄稿する。

 「ヒロシマと赤十字」の縁もひもとく。原爆投下直後の1945年8月30日に広島入りしたICRC駐日代表部の職員フリッツ・ビルフィンガー氏が、「核の軍事利用をoutlaw(禁止)する」必要を述べた報告書を紹介する。同年9月に大量の医薬品を広島に届けたマルセル・ジュノー駐日代表は、「広島の恩人」と呼ばれている。

 ウェブページは教育用の素材として作った。原爆投下後の広島市街のパノラマ写真はカーソルで360度回転ができるなど、工夫を凝らしている。編集者のエレン・ポリシンスキーさんは「被爆地を訪れる機会がなくても、そこに立っているように被害を実感してほしい」と狙いを話す。

 「非人道性」という切り口から核兵器廃絶運動が近年あらためて盛り上がっているのは、2010年4月に当時のICRC総裁が出した声明がきっかけ。すさまじい破壊力と放射線の放出を伴う核兵器の使用は、国際人道法に基づくICRCの被害者救援活動を不可能にすると指摘。市民と戦闘員を区別しない無差別殺りく兵器であり、同法の原則と合致しないとした。中立的な国際組織の発言に、核軍縮に熱心な国や平和団体が呼応した。

 ただ、国際人道法の原則と相いれない「核兵器」だが、名指しで禁止した条文はない。ならば新たな条約で禁止を明確化しよう、という潮流が来年の禁止条約交渉につながった。

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員は「来年は『どんな禁止条約にすべきか』という具体論に入っていく。『非人道性』アプローチの火付け役であるICRCが発信する法的議論を学び、被爆体験と合わせて、より説得力ある訴えにすることが重要だ」と話している。

 ウェブページはhttps://app.icrc.org/e‐briefing/nuclear‐weapons‐the‐human‐cost/

(2016年12月26日朝刊掲載)

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