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2016政界を振り返る 中国地方選出議員の動き 「安倍1強」さらに 

 2016年の政界は、安倍晋三首相(山口4区)が率いる自民党と、安倍内閣の安定ぶりが目立った。夏の参院選で自民、公明の与党両党は議席を増やして圧勝した。野党は、民進、共産など4党が連携したが伸びなかった。参院選後の内閣改造で主要閣僚を留任させた首相は、自身の通算在職日数が戦後4位に。在職が長期に及ぶ閣僚や自民党幹部もいる。巨大与党に対抗するため、民主党と維新の党は3月、合流して民進党を結成。その民進党は9月の代表選で蓮舫氏を選んだ。オバマ米大統領が広島市を訪れた16年を、中国地方選出の国会議員の動きを中心に振り返る。(野崎建一郎、清水大慈、田中美千子)

■参院選

島根・鳥取 初の合区

 7月10日に投開票された参院選は、議席数を増やした自民党の「1強」がより強まった。野党は、民進、共産、社民、生活(現自由)の4党が改選1人区を中心に共闘したが苦戦。この構図は、中国地方も同様だった。選挙の結果、衆参両院とも憲法改正に賛同する勢力が全議席の3分の2を超えた。

 16人が改選5議席を争った中国地方の4選挙区。自民党は、全選挙区に候補を立てた。各候補は「(安倍政権の経済政策)アベノミクスの継続を」などと主張。広島の宮沢洋一氏、山口の江島潔氏、岡山の小野田紀美氏、島根・鳥取の青木一彦氏の4人全員が当選を果たした。

 1人区の山口、岡山、島根・鳥取の3選挙区で、民進党など野党は統一候補を立て、「安全保障関連法を廃止すべきだ」などと与党を批判した。しかし、いずれも及ばず、民進党は民主党時代から江田五月氏が守っていた岡山の議席を失った。

 民進党は広島で柳田稔氏が4選を決めたが、トップ当選した宮沢氏との票差は、10年より約5万票も広がった。

 「1票の格差」を是正するため、現在の憲法下では初めて隣接県を一つの選挙区にする合区が導入された選挙でもあった。島根、鳥取両県と徳島、高知両県の2選挙区。候補者は、広い選挙区で、知名度アップや訴えの浸透に苦労した。

 鳥取、徳島、高知の3県では、投票率が参院選の選挙区では過去最低となり、有権者の政治離れも招いた。全国町村議会議長会などの地方団体は「地方創生の流れに逆行する」などと解消を求めている。全国知事会は、参院議員を地方代表として位置付ける憲法改正案も提起している。

 島根、鳥取、徳島、高知の4県町村会が10月、自民党の吉田博美参院幹事長に合区の早期解消を要望した際には、同党の青木氏や舞立昇治氏(参院鳥取)たちも同席した。

 参院選では、同時に衆院選がある「衆参同日選」の可能性が取り沙汰された。しかし、1986年以来30年ぶりの同日選にはならなかった。首相がいつ解散に踏み切るのか。中国地方選出の国会議員たちは、情報収集や準備に余念がない。

■被爆地と外交

米大統領が広島訪問

 戦後71年。先の大戦で戦火を交えた日米両国の「和解」と同盟関係の強さを印象付ける出来事が続いた。

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立つ外相会合が4月、広島市で開かれた。核兵器を持つ米国、英国、フランスの現職外相の被爆地訪問は初めて。岸田文雄外相(広島1区)が議長を務め、核兵器廃絶の機運醸成を図る「広島宣言」を発表した。

 5月にはオバマ米大統領が広島市を訪れた。現職の米国大統領としては史上初めてだった。首相と共に中区の平和記念公園に立ったオバマ氏は、原爆慰霊碑前で演説し「核なき世界を追求する勇気を」と呼び掛けた。

 演説の場には自民党の平口洋氏(広島2区)や河井克行氏(広島3区)、小島敏文氏、公明党の斉藤鉄夫氏、共産党の大平喜信氏(いずれも比例中国)たち地元選出の国会議員も立ち会った。

 自民党の「被爆者救済を進める議員連盟」の代表世話人を務める寺田稔氏(広島5区)は、政治指導者の広島訪問を引き続き促すよう求める決議文を、首相の秘書官に届けた。

 オバマ氏への「返礼」なのか。首相は今月28日(日本時間)、日本軍の奇襲攻撃で日米開戦の発端の地となった米ハワイ・真珠湾を訪れ、犠牲者を慰霊する。オバマ氏と最後の首脳会談にも臨む。

 年明け、米国では新たなトップが就く。日本の核兵器保有を容認したと報じられたこともあるトランプ氏だ。首相は大統領選直後、首相補佐官の河井氏を米国に派遣。自らも異例の早期訪米に踏み切り、信頼関係の構築を図った。

■内閣改造

主な閣僚留任 側近重用

 首相は参院選後の8月、内閣改造に踏み切った。第3次安倍再改造内閣は、自民党内の「安倍1強」がにじむ人事だった。

 菅義偉官房長官や岸田外相たち主要閣僚を留任させ、安定感を重視する一方、安倍氏に近い議員を重用。後継と見込む稲田朋美氏を防衛相とし、世耕弘成氏を経済産業相に初入閣させた。加藤勝信1億総活躍担当相(岡山5区)は、看板政策を担う「働き方改革」担当相を兼務することとなった。

 ただ、安倍政権下で地方創生担当相などを担い、岸田外相と共に「ポスト安倍」とされる石破茂氏(鳥取1区)は閣外に出た。石破氏は理由について、「自民党内に多様な意見があることが大事だ」と、安倍1強の内閣を離れることの意義を説明した。

 中国地方では、内閣改造に伴う副大臣と政務官の人事で、外務副大臣に岸信夫氏(山口2区)、厚生労働副大臣に橋本岳氏(岡山4区)、経済産業政務官に中川俊直氏(広島4区)、総務政務官に島田三郎氏(参院島根)が就いた。

 内閣改造と同時期の自民党役員人事で安倍氏は、総裁任期延長をいち早く打ち出した二階俊博氏を幹事長に起用した。高村正彦氏(山口1区)は副総裁に留任。竹下亘氏(島根2区)が初めて国対委員長に、細田博之氏(島根1区)は2度目の総務会長に就いた。

■野党連携

次期衆院選 見えぬ道筋

 野党は与党に対抗するため、連携策を探るが、次期衆院選での調整方法などは明確になっていない。

 民進党は3人が立候補した9月の代表選で、蓮舫氏を選んだ。中国地方選出の同党国会議員は、森本真治氏と柳田氏(いずれも参院広島)、高井崇志氏(比例中国)の3人が玉木雄一郎氏を支持。津村啓介氏と柚木道義氏(いずれも比例中国)は蓮舫氏を支援した。

 蓮舫氏は代表選では次期衆院選での野党共闘に慎重な姿勢を示していた。ただ、政党支持率が低迷する中、野党連携を重視する姿勢に転換しつつある。

 次期衆院選について、自由党は今月14日、佐藤公治氏を広島6区の公認候補として内定したと発表した。自由党サイドは広島6区の無所属現職の亀井静香氏の「後継」候補になることを期待している。ただ、亀井氏は「何の連絡、相談もなかった」と不満を隠さない。佐藤氏も「党本部が決めたこと。私は知らなかった」と釈明する。

 民進、共産、社民、自由の野党4党は今後、選挙区ごとの擁立状況などを見極めながら、候補者の調整や協力の在り方を協議していく考えでいる。

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<2016年の主な出来事>(肩書は当時)

 1月 4日 通常国会開会
    6日 北朝鮮が4回目核実験。「初の水爆」と発表
   16日 民主党最高顧問の江田五月氏が引退表明
   28日 甘利明経済再生担当相が辞任
 2月 4日 環太平洋連携協定(TPP)参加12カ国が協定文に署名
    7日 北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイル発射
   15日 広島県が福山市の鞆港埋め立て免許申請取り下げ
 3月27日 民主党と維新の党による民進党が発足
   29日 安全保障関連法が施行
 4月10日 広島市で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の外相会合開幕
   14日 熊本で震度7の地震
 5月20日 衆院定数を10減する改正公選法が成立
   26日 伊勢志摩サミット開幕
   27日 オバマ米大統領が広島訪問
 6月 1日 安倍晋三首相が消費税率引き上げの再延期を表明
   19日 選挙権年齢を18歳以上に引き下げる改正公選法施行
   21日 舛添要一東京都知事が辞職
   24日 英国民投票で欧州連合(EU)離脱支持が過半数
 7月10日 参院選で与党勝利。改憲勢力が3分の2超す
   31日 東京都知事に小池百合子氏
 8月 3日 第3次安倍再改造内閣発足
    8日 天皇陛下がお気持ち表明。生前退位実現に強い思い
   22日 最新鋭ステルス戦闘機F35Bを米海兵隊岩国基地(岩国市)に        米国が配備すると、国が山口県、岩国市に通告
 9月 9日 北朝鮮が5回目の核実験
   15日 民進党代表に蓮舫氏
   26日 臨時国会が開会
10月11日 広島空港の民営化を目指す方針を広島県の湯崎英彦知事が表明
   21日 鳥取で震度6弱の地震
   23日 岡山県知事に伊原木隆太氏が再選
   26日 自民党が総裁任期を「3期9年まで」に延長する方針を決定
   28日 核兵器禁止条約の制定交渉開始を定めた決議案を国連委が採択。        日本は反対
11月 8日 米大統領選でトランプ氏が勝利
   29日 朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領が任期満了を待たず辞任の意向
12月 9日 TPP承認、関連法が成立
   13日 沖縄で米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが不時着事故
   14日 年金制度改革法が成立
   15日 長門市で日ロ首脳会談▽カジノを中心とする統合型リゾート施設        (IR)整備推進法が成立
   26日 安倍首相が米ハワイ真珠湾訪問へ出発

(2016年12月27日朝刊掲載)

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