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連載・特集

『生きて』 都市・建築研究者 石丸紀興さん(1940年~) <15> 提案

地域見つめて研究継続

  2003年春、広島大工学部教授を退職。11年春まで広島国際大工学部の教授を務めた
 広島大を退職した年の秋、「聞いてください、私の提案」と題して講演しました。10年夏には冊子「早すぎた提案」も自費出版して。内容は、被爆建物の保存・活用策や住民参加のまちづくり計画の手法などに及んでいます。原爆慰霊碑(広島市中区)の前にスロープを付けるべきだという提案は40年前のことです。

 被爆地広島の復興史研究で、戦後間もなく多彩な復興計画が構想されたことを知った。少なくとも40件を超します。実現したかどうかも大事だけど、早い段階でのユニークな発想の意味は大きい。いずれ実を結ぶかもしれないし、豊かな発想力、提案力を私は大切にしたいんです。

  11年6月、中区に広島諸事・地域再生研究所を設立。まちづくり提案のほか、相次ぐ災害の調査も続ける
 災害調査は阪神大震災が最初。鳥取県西部、芸予、新潟県中越地震の被災地、福岡県西方沖地震が襲った玄界島も何回も調査した。被害状況や住民の震災体験を記録する。東日本大震災では、神社に逃げて津波から助かった人たちがいた。なぜ神社に向かったのか。時間がたつと追跡しにくくなる。積極的な調査姿勢が問われています。

 14年8月の広島土砂災害後、砂防ダムなどが建設されています。それも重要ですが、地区ごとに住民を交え、防災を踏まえた詳細なまちづくり計画も考えていくべきでしょう。

 今まで自分の目的を果たそうとして、多くの人に迷惑を掛けたかもしれない。ふと研究所内を見渡すと、テーマごとに資料のコピーや写真を詰めた段ボール箱の山です。本棚に全集や書籍だけがずらっと並ぶタイプじゃない。でも、いろんなことをがむしゃらにやってきた中で、光栄にも日本都市計画学会賞や日本建築学会賞をいただいた。やりたいことはまだある。心して努力していきたいと思っています。=おわり(この連載は文化部・林淳一郎が担当しました)

(2016年12月27日朝刊掲載)

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