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「和解」の広がり願う 首相 真珠湾慰霊 「アジア諸国とも」 戦争体験者ら注文

 米ハワイ・真珠湾で戦争犠牲者を慰霊した安倍晋三首相が「和解の力」を訴え、中国地方の戦争体験者たちは好意的に受け止めた。一方で、戦争被害を忘れず、アジア諸国との和解を求める声もあった。

 「安倍首相が海に花を手向けるのを見て、体が震えるような感動を覚えた」。真珠湾攻撃に関わった空母「瑞鶴」で航空整備兵だった笠岡市の川上秀一さん(98)はテレビ中継に見入り「日米の同盟関係は強固になった」と評価した。  同じく乗組員だった岩国市の金丸彦吉さん(97)も「中国や韓国、北朝鮮などアジアにも『和解の力』が広がってほしい」と期待した。

 この日、広島市中区の原爆資料館を訪れた米アラバマ州の大学教員スー・ウェイルズさんは「首相の訪問をうれしく思う。互いを思いやる日米の友好関係を強く感じた」と話した。

 演説後、安倍首相は真珠湾攻撃を生き延びた元米兵らと握手を交わした。真珠湾攻撃で亡くなり、戦時中に九軍神の1人とたたえられた佐々木直吉少尉の慰霊を出身地の浜田市で続ける顕彰会の細川末喜事務局長(86)は「両国の若者の犠牲の上に平和があるという思いを強くした」とする。

 真珠湾にある戦艦ミズーリ記念館と提携する大和ミュージアム(呉市)の戸高一成館長(68)も「日米のトップがあらためて和解の大切さを訴えた。戦争の悲劇を伝え、平和を訴えるため今後も協力していきたい」と思いを強くした。

 終戦の年の8月8日、米軍による市街地への空襲を体験した福山市の近藤茂久さん(83)は「憎み合う戦争をしても、和解できることを世界に示せた」と評価する一方、日米同盟の強化を強調する姿勢には「日本は戦争を放棄した国。世界平和のために同盟の力を使ってほしい」と注文した。

 被爆3世でハワイ大に留学経験がある広島市立大4年三好花奈さん(22)=広島市佐伯区=も「真珠湾攻撃の被害者や被爆者が生きているうちに両首脳が互いに訪問できたのは良かった」としつつ「和解ばかりがクローズアップされると、現実にあった被害が忘れられてしまうのでは」と危ぶんだ。

 首相は演説で先の大戦への謝罪には触れなかった。中国・大連市から留学する広島大大学院生の胡雅恵さん(23)=広島市南区=は「不戦を誓いながら、集団的自衛権行使を容認する安倍政権には矛盾を感じる。戦争犠牲者を思うなら、より大きな被害を与えたアジア諸国との和解が先では」と疑問を呈した。

 在日韓国人で被爆者の李鐘根さん(87)=広島市安佐南区=も「慰霊だけでなく、攻撃が過ちだったと認めるべきだ。演説で軍人を『勇者』とたたえており、戦争を正当化しているようにも感じた」と話した。

(2016年12月29日朝刊掲載)

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