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ゲストハウス 絆育む交流宿 

 外国人観光客の増加を受け、広島市内で素泊まりや相部屋で安く宿泊できる「ゲストハウス」の開業が相次いでいる。他の旅行客や住民との交流、日本の伝統文化の体験など、それぞれの魅力が光る。外国人が平和を学ぶ場にもなっている。にぎわうゲストハウスを訪ねた。(森戸新士)

つるや木賃宿(中区本川町)

外国人と住民 出会いの場

 昨年12月上旬、併設のカフェバーではドイツやオランダ、台湾からの観光客と地元住民が会話を弾ませていた。「また会いましょう」。連絡先を交換し、再会を誓う場面もあった。

 太田川を望む正面入り口は全面ガラス張りで開放感にあふれ、月1回は鍋を囲んだり、クリスマスを祝ったりするイベントを開く。週に1、2回訪れるグラフィックデザイナー久我遥さん(32)=佐伯区=は「気軽に多様な国の人と語り合える。英語の勉強にもなる」。

 米国で6年間の留学経験がある山坂哲大社長(31)が昨年8月に開業した。被爆地としてだけではなく、今の広島も知ってほしいとの思いからだ。地元住民との交流の場として、宿泊しなくても利用できるカフェバーを併設した。

 宿泊客の6~7割が外国人。開業3カ月で外国人約500人が利用した。山坂社長は「広島に暮らす住民との何げない交流を通し、平和な広島を知ってほしい」と話していた。

■原爆ドームから徒歩約5分。中区本川町2の1の7。男女共用10人、女性専用の8人と4人の相部屋、個室あり。1泊3千円から。Tel082(942)5500。

ゲストハウス・ラッピー(東区若草町)

着付け・お好み焼き作り

 「色がきれい」「デザインもすてき」。昨年12月上旬、和室で振り袖を着せてもらうシンガポール人の大学生ジェス・リーさん(22)が顔を輝かせた。

 1人2千円の着付け体験。三戸康子オーナー(51)とボランティアの佐藤祐江さん(49)=中区=が、セットで茶道も教える。リーさんは「伝統文化に触れられてよかった」と満足そうだ。

 2012年7月の開業時から、宿泊客に多彩な体験メニューをそろえる。お好み焼き作り、茶道、書道と聖光寺(東区)の座禅は、すべてワンコインの500円。お好み焼きは手作りの英語のレシピを渡す。座禅には英語の解説もある。

 春の花見や節分の豆まきも楽しむ。毎年末に隣の集会所で催す餅つきには、市内の別のゲストハウスの外国人客や地元住民が集う。三戸さんは「復興を遂げた広島で習慣や伝統を体験してもらい、平和の大切さを実感してもらいたい」と力を込めた。

■JR広島駅北口から徒歩約10分。東区若草町1の7。男女別各4人の相部屋、共用8人の相部屋、個室あり。1泊2200円から。Tel082(569)7939。

エバーグリーンホステル(中区本川町)

接客や清掃しながら滞在

 「いらっしゃいませ」。昨年11月下旬、2人の外国人が出迎えてくれた。フランス人のアヴリル・グアリーノさん(22)とフィンランド人のジェニ・シルヴェラさん(35)。就労ビザを持つ2人は、スタッフとして働きながら滞在した。

 梅本葉月オーナー(29)は「広島の暮らしを深く体験してもらいたい」と話す。就労ビザを持つ外国人に約1カ月、接客やベッドメーキング、観光案内などを担ってもらい、宿代や1日千円の食費を提供している。昨年6月の開業以降、米国人やドイツ人たちが働いた。

 日本の伝統芸能や歴史に興味があるというグアリーノさん。「休み時間に散歩したり、近くの神社の祭りで神楽を見たり。街の息づかいを感じた」と楽しそうだった。

■中区本川町2の4の17。男女共用16人と女性専用8人の相部屋がある。1泊2500円から。Tel082(576)6611。

ケイズハウス広島(南区的場町)など

ロビーに原爆関連の書籍

 ケイズハウス広島のロビーには、被爆者の画集や被爆体験の絵本など11点が並ぶ。宮本真弓マネージャー(40)は「平和記念公園を訪れた後にじっくりと読み込む客が多い」と話す。

 オランダ人の大学院生ジェラン・ランコーストさん(24)は「資料館で心を揺さぶられたことを思い出した。帰国後も忘れないようにしたい」と真剣な表情で話していた。

 ゲストハウス・ラッピー(東区)では、爆心地から半径2キロ以内の被爆樹木を記した地図をロビーに掲示。巡る観光客もいるという。

 市内の8軒が、広島ピースホステルネットワークに加盟。市は加盟する宿に原爆平和関連の書籍本を無償提供。希望があれば、被爆者や独自に養成する被爆体験伝承者を派遣し、体験を語ってもらっている。

■ケイズハウス広島は南区的場町1の8の9。男女共用4人と6人の相部屋、4人の女性専用、個室あり。1泊2600円から。Tel082(568)7244。

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ゲストハウス
 素泊まり、相部屋が基本の低価格な宿泊施設。リビングやキッチンなどの共有スペースで宿泊客同士が交流でき、若者や外国人観光客を中心に人気がある。全国の観光地や都市部で増加傾向にある。広島市内では2006年に1軒だったが、12年から開業が相次ぎ、現在では少なくとも12軒に上る。

(2017年1月4日朝刊掲載)

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