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社説・コラム

社説 国連グテレス体制 組織強化 待ったなしだ

 ポルトガル元首相で前国連難民高等弁務官のアントニオ・グテレス氏が、新しい国連事務総長に就任し、国連の新体制が始動した。超大国までもが「自国第一」に傾く中、グテレス体制にとって国際協調を旨としてきた国連の信頼回復と組織強化は待ったなしだ。

 「多くの人々は国連への信頼を失っている。国連は変革に向け覚悟をしなければならない」「今こそ多国間主義の価値を強く主張していく時だ」

 グテレス氏は昨年末から年明けにかけて国連総会などで相次いで演説し、決意のほどを語った。グテレス氏への期待は高まっているが、逆に言えば危機感の裏返しともいえよう。

 欧州のポピュリズム(大衆迎合主義)政党の多くは欧州連合(EU)を「エリート支配層」などと批判して、国民の支持を集めている。国際組織への風当たりは強くなる一方であり、国連も例外ではあるまい。

 潘基文(バンキムン)前事務総長の在任中、シリア内戦は混迷を深めた。国連安全保障理事会では常任理事国の米ロの対立が激化し、欧米が提案した決議案に対してロシアが拒否権の行使を繰り返し、機能不全が続いた。ようやく昨年末にロシア主導の停戦が発効したが、内戦終結につながるかどうかは不透明だろう。

 戦闘が続きジェノサイド(民族大虐殺)に発展する恐れが指摘される南スーダン情勢、内戦状態のイエメン、ウクライナ危機などもそうだ。調停力を発揮できなかった国連が深い失望を招いたのは間違いない。

 さらには国連平和維持活動(PKO)部隊の兵士らによる性的暴行といった不祥事も信頼を損ねた。派遣先によっては国連の青い旗が嫌悪の対象になっている現実を、グテレス氏は直視しなければなるまい。

 組織強化策としては、事務総長をトップとした新たな幹部会を設置し、迅速な意思決定を行うという。世界各地で起きている紛争や対立に複数の国連機関が結束するよう調整する特別顧問の任命も挙げている。

 当面突き当たる壁は国連への最大の資金拠出国、米国との関係だろう。トランプ次期大統領は核軍縮や気候変動対策などについてオバマ大統領の路線を見直す可能性が強い。国連が自国の利益に反する方向に向かうなら、拠出金の支払いなどを巡って圧力をかけかねない。

 グテレス氏が「多国間主義」を掲げるのは、トランプ氏のいう「米国第一」を強く意識しているとみていいだろう。

 とりわけ中東和平は政権移行に伴って風向きが変わる。昨年末、多国間外交を重視してきたオバマ政権が安保理でイスラエルのユダヤ人入植活動を非難する決議の採択を容認したが、トランプ氏は逆にイスラエルとの関係強化を示唆する。トランプ氏との関係がぎくしゃくしたとしても、グテレス氏は筋を通すべきだろう。

 日本政府は、グテレス氏の就任を歓迎している。安保理改革を通じた常任理事国入りに協力を得たい腹積もりだろう。ただ難民問題で国際社会に責任や負担を分かち合う機運がより高まれば、資金拠出だけではなく、人的貢献を求められよう。

 平和国家らしい貢献はどうあるべきか。日本国内の議論も必要になってくるに違いない。

(2017年1月12日朝刊掲載)

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