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連載・特集

緑地帯 平和を願う聖堂 青葉憲明 <8>

 故菊竹清訓さんが会長を務めていた「村野藤吾研究会」が8年前、世界平和記念聖堂でミサを営んだ。建築関係のシンポジウムのプログラムとしてミサをするのは、日本では異例なことだ。

 菊竹さんは、出雲大社の「庁の舎」という作品で建築学会賞を受賞した著名な建築家。1948年の聖堂の設計コンペにも応募された。シンポでの「世界平和と核廃絶を祈願するミサ」は村野さんへの追悼の意味もあり、菊竹さんが強く希望し実現したという。

 このミサを司式したマクガレル神父(元エリザベト音楽大理事長)が説教で話された、村野さんに関する逸話が印象深かった。

 村野さんは、聖堂建設を発願したラサール神父から80年にカトリックの洗礼を受けた。洗礼名はアッシジの聖フランシスコ。清貧と平和に生きた伝説的な聖人の名である。マクガレル神父は「質素に暮らして自然界と親しく交わることは、フランシスコの祈りと生き方の特徴。それは村野さんの建築の心に通じ、その心がこの聖堂によく表れている」と解説した。

 マクガレル神父にとって、聖堂のクリアストリー(高窓)が特に質素で力強く感じられ、そのステンドグラスを通して注がれる光は、地味な空間でひときわ美しく輝いて見えたという。

 「そこに昇って行きたい、その光に包まれたい。村野先生が残されたこの空間で心を一つにし、世界平和と核廃絶を祈願するミサを」。神父のこの言葉のように、聖堂が末永く平和を祈る聖地であり続けるよう願う。(世界平和記念聖堂保存活用委員=広島市)=おわり

(2017年1月18日朝刊掲載)

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