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社説・コラム

社説 通常国会開幕 「言論の府」の真価示せ

 きのう通常国会が開幕した。施政方針演説の冒頭で安倍晋三首相は、「戦後」の、その先の時代を開く「新しい国創(づく)り」への挑戦を唱えた。

 折しも、米トランプ新政権の発足目前の国会召集となった。海外では英国の欧州連合(EU)からの「完全離脱」の表明もあり、世界経済の行く手は不透明感を増している。日本国内でも道半ばのデフレ脱却に加え、人口減や超高齢化時代への対応、財政再建など待ったなしの宿題を抱えている。

 論じるべき課題は、まさに山積みといえよう。国会にとって「言論の府」としての真価が問われる正念場である。

 前半国会では政府・与党はまず、2016年度の第3次補正予算案と、過去最大の97兆4千億円に膨らんだ17年度予算案の成立を急ぐ。財政健全化を先送りする中、5年連続の増加とした防衛費や公共事業費をはじめ肥大する歳出には厳しいチェックが欠かせない。

 その中で文部科学省の天下りあっせん問題が予算論議に影を落とすのは間違いあるまい。事務次官の辞任に加え、組織ぐるみの関与がはっきりした以上、他省庁の実態を含めて徹底的にメスを入れる必要がある。

 予算が成立したとしても後半国会は懸案が待ち受ける。何より天皇陛下の退位を巡る議論だろう。退位を今の陛下一代に限るか皇室典範の改正で制度化するかで今のところ、各党の主張は割れている。無用の対立は避け、世論に軸足を置いた、丁寧な合意を図ってほしい。

 政府与党は「共謀罪」の構成要件を厳格にして「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案提出をもくろんでいる。だが対象犯罪を絞り込む声が与党内から出ていて、その調整すらこれからだ。東京五輪のテロ対策を大義名分とするが、野党側の反対は必至だ。重要法案が山積する中で、拙速に成立させる必要があるとは思えない。

 国会には今こそ慎重で、視野を広く取った熟議を求めたい。昨年の臨時国会では環太平洋連携協定(TPP)や統合型リゾート施設(IR)整備推進法を巡り、与党側の強引な運営が目に余った。異論にも寛容な、何より国民の声に耳を傾ける姿勢を忘れてほしくない。

 首相は施政方針演説で次なる70年へのスタートラインだと強調した。強い意欲を示してきた憲法改正も視野に入っているのだろう。「(先人は)廃虚と窮乏の中から敢然と立ち上がり、次の時代を切り開いた」「『戦後』の、その先の時代を開く」と演説でうたったが、一方で先の大戦を招いた経緯には触れなかった。戦争の反省と切り離し、戦後に区切りを付けようとする認識はいかがなものだろう。

 象徴天皇制も平和主義も、敗戦という重い教訓から日本国憲法にもたらされ、70年かかって定着したものにほかからない。首相が「基本的価値」に挙げる民主主義にしても同じである。

 今国会中には憲法改正項目の絞り込みも含め、憲法審査会の議論を前に進めるよう与党側が求めることも想定される。

 戦後70年の日本の歩みを謙虚に振り返り、深化させるスタートラインにこそ立つべきだ。そのためにも「言論の府」の健全な論戦で、一歩を踏み出してもらいたい。

(2017年1月21日朝刊掲載)

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