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オスプレイ岩国陸揚げ 叫ぶ「配備NO」 全国から市民集結

 「オスプレイはいらない」。巨大輸送船からゆっくりと陸揚げされる灰色の軍用機。陸地から声を張り上げ、小さなボートを海にこぎ出して抗議を続けた。23日、岩国市の米海兵隊岩国基地に10時間近くかけて搬入された垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機。全国各地から駆け付けた人たちが「配備を撤回させるまで闘い続ける」と怒りのシュプレヒコールを叫び続けた。

 門前川を挟んで基地の対岸に位置する同市尾津町の堤防。山口県や、同じく米軍基地がある沖縄県などの市民団体のメンバーたちがこの日未明から「オスプレイはいらない」などと書かれた横断幕やプラカードを掲げ、輸送船に抗議を続けた。

 墜落事故が続いているオスプレイを「世界で最も危険な戦闘輸送機だ」と市民団体メンバー。オスプレイを載せた輸送船が岩国基地に接岸し、陸揚げ作業が始まると、「日本の空を飛ぶな」と怒号も響いた。

 市民団体「ピースリンク広島・呉・岩国」のメンバーら25人は海上へ繰り出した。漁船やゴムボート計9隻に分乗し、沖合から怒りの声を上げた。

 ゴムボートが輸送船に近づくと、海上保安庁の船がたちまち周りに集まる。一般船の通れない提供水域にも阻まれる。それでも約2キロ先の陸揚げ現場へ拡声器を向け、「配備をやめろ」などと英語と日本語で叫び続けた。

 輸送船の着岸は基地滑走路の沖合移設に伴う港湾機能の強化で可能になった。岩国爆音訴訟の会の津田利明共同代表(66)は「滑走路の沖合移設は騒音や事故の不安軽減が目的のはずだった。あらためて憤りを感じる」と怒りをあらわにした。

 参加者が約600人(主催者発表)に膨れあがった午後の集会では、反対行動の実行委員会共同代表の一人、大川清代表(54)が「こんな暴挙を許してはならない。配備されれば、全国各地で低空飛行が行われ、全国に危険を振りまくことになる」と訴えた。

 同じく基地がある沖縄県や長崎県佐世保市の市民団体メンバーも加わり「飛ばさせずに米国に送り返す」と気勢を上げた。

 集会では「配備を撤回させるまで日米両政府に粘り強く働きかける」としたアピールを採択。「オスプレイ岩国へ持ち込むな」と書かれた横断幕を先頭に基地対岸を1・2キロデモ行進した。対岸の基地に向かって「人間の鎖」をつくり、反対の意思を示した。

 激しい抗議を尻目に淡々と進められた陸揚げ作業。集会にメンバー50人と駆け付けた廿日市市の市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の坂本千尋事務局長(59)は「オスプレイは離着陸時の事故が多い。基地に隣接する大竹や廿日市両市に被害が及ぶ可能性がある。人ごとではない」と唇をかみしめた。

 岩国市にはこの日、14件の苦情も寄せられた。市によると、メールや電話で「墜落したらどうするのか」「市はどういうアクションをとるのか」などだった。

基地の街 渦巻く不信 声からし「命を守る」

 ここに暮らすわれわれの安全は二の次か―。岩国市の米海兵隊岩国基地に垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが搬入された23日、相次ぐ事故に懸念を抱く市民からの怒りの声が噴出した。不満や不安は基地に協力的な人たちにも広がっている。国や基地へ向けられた目線はかつてなく厳しい。

 ことし4月と6月に墜落事故を起こし、9人が死傷したオスプレイ。基地対岸の同市尾津町の堤防で抗議した市民たちは安全性への疑念をぶちまけた。

 「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」の藤川俊雄さん(64)=同市平田=は「飛ぶ資格のない機体だ。市長は基地に乗り込んででも配備中止を強く求めるべきだ」と強調。近くの主婦村上由佳里さん(51)は、「低空飛行訓練が実施されれば事故が起きるにちがいない。命を守るための抗議です」と声をからしていた。

 2014年までに空母艦載機59機の移転が予定される岩国基地。愛宕山への米軍住宅地建設に対する反対運動も依然として根強い。相次ぐ「地元負担」が国への不信感も増幅させている。

 基地に近い同市桂町の主婦河本かおるさん(60)は「何でも岩国に押しつけられる。地元が反対の声を上げても押し通されるのなら、試験飛行を控えるという国の説明も信じられない」とした。

 「一方的な押し切りは、国に対する信頼感を損なうことになりかねない」。日米安全保障条約に基づくため、基本的には空母艦載機移転を容認する市民団体「岩国の明るい未来を創る会」の原田俊一会長(79)も今後への影響を懸念する。

 一方、基地に隣接する同市車町の車第三自治会の山県克彦会長(65)は「基地近隣の市民がこれまで受けてきた被害を知ってもらい、日米安保のあり方を根本から見直す契機になれば」と願った。

 「どんどん国に既成事実をつくられてきたが、市民はいつまでも黙っていない。運動は市民の間に広がっていくと思う」。堤防での抗議集会の最後にあいさつした愛宕山を守る会の天野一博事務局長(61)はこう指摘した。

拡張基地 開く主翼 上空ルポ

 穏やかな瀬戸内海に突き出た米海兵隊岩国基地南側の岸壁。23日午前8時すぎ、眼下の民間輸送船グリーンリッジ船尾の搬出口から、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが姿を現した。全長約26メートルの主翼を90度回転させ、両端の回転翼は畳んだまま。車両に押し出され、周りに米軍関係者の姿も見える。

 輸送船は朝もやの中、同6時すぎにゆっくりと接岸。広大な基地周辺には、抗議船や海上保安部の巡視船の白い航跡も延びる。南側の門前川河口からは、陸揚げ反対を訴えるボートが沖へ向かう。

 1機ずつ車両にけん引された機体は、海沿いの誘導路から新旧の滑走路を横切り、約30分かけて西寄りの駐機場へ。主翼と回転翼を開き、機内に乗り込む様子もうかがえた。

 午後6時、12機がずらり。その光景は、沖合移設で拡張した同基地が海上輸送の拠点も担う変化の象徴のようだ。延長約2・4キロの滑走路と併せて基地機能は強められてきた。

 基地周辺の家々や工場、ハス田。陸揚げのすぐ横で生活する住民の姿が目に浮かぶ。雲間にのぞく島々や中四国山地も、墜落の危険や騒音にさらされる。(広田恭祥、衣川圭)

ドキュメント 7・22~23

22日20時25分  民間輸送船グリーンリッジが関門橋の下を通過し瀬戸内海へ
23日 0・55ごろ 岩国基地の対岸、岩国市尾津町の堤防で海を見つめていた地元の自営業男性(64)が「オスプレ
            イは墜落の危険性が高く、心配」
    2・55    基地近くの門前川の船だまりで、先行搬入に反対する市民団体のメンバーが双眼鏡で輸送船の到
            着を警戒
    4・20    門前川の船だまりに、海上で抗議する市民団体が集まり始める
    4・50    岩国市の福田良彦市長が同市尾津町の市地方卸売市場に到着。2階事務所から望遠鏡などで輸
            送船を探す
    5・00    輸送船が基地の沖約5キロの甲島(かぶとじま)西側に進む
    5・02    ピースリンク広島・呉・岩国のメンバーらが、門前川の船だまりでゴムボートの準備開始
    5・05    尾津町の堤防に約30人が集まり「オスプレイはいらない」などのシュプレヒコールを始める
    5・17    基地監視団体リムピース共同代表の田村順玄・岩国市議ら6人が輸送船を確認するため漁船で出
            港
    5・30ごろ  輸送船が一般船舶の通れない提供水域に入る
    6・20    輸送船が岩国基地に接岸
    6・30    福田市長が市地方卸売市場で会見。「国に地元の切実な思いが伝わらなかったのは残念」
    6・34    門前川の船だまりから出港した漁船とゴムボートが海上デモ。「オスプレイはいらんぞ」と拡声器で
            声を上げる
    7・00    尾津町の堤防の人数が約300人に。横断幕やプラカードを掲げて抗議の声を上げる
    7・45ごろ  漁船とゴムボートが提供水域近くに接近。海上保安庁の船舶が巡回する中、拡声器と横断幕でオ
            スプレイ陸揚げ反対を訴える
    7・59    オスプレイの陸揚げ始まる
    8・31    堤防のシュプレヒコールを切り上げる
    8・39    海上デモをしていた船が引き揚げ始める。抗議活動を主催した実行委員会の共同代表の一人、岡
            村寛さん(68)は「強い反対の声をぶつけた」
   13・00    尾津町の堤防で市民団体や労組のメンバーら約600人が抗議集会。人間の鎖やデモ行進で配備
            の即刻中止を訴え。米軍再編に協力姿勢の岩国市議でつくる「岩国基地問題に関する議員連盟」
            は市役所で臨時総会を開き、今後の対応を協議
   17・15ごろ  オスプレイ12機の陸揚げが完了

(2012年7月24日朝刊掲載)

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