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感謝通じ育む心 薬師寺の村上管主 広島で法要

 法相宗の大本山薬師寺(奈良市)の村上太胤管主(かんす)(69)が昨年12月、広島市を訪れ、同寺の国宝東塔内で2012年に確認された仏舎利を前に、宝前法要を勤めた。村上管主は昨年8月に就任した記念として全国を訪ねており、信者でつくる「広島薬師寺会」による活動が盛んな広島は、浜松市と仙台市に次ぎ3カ所目。玄奘三蔵から伝わる「唯識」の教えなどを会場で説いた。(桜井邦彦)

 法要は、西区の区民文化センターであり、東塔の心柱最上部から出てきた仏舎利を祭壇に安置。般若心経と舎利礼文を唱えた。続く法話で、村上管主は「唯識とは、すべての事象は心がつくり出していくと説いた教え」とし、「12月は感謝する報恩月であり、お掃除の月。捉われる心や偏りの心を空っぽにし、新しい年に福を頂戴しましょう」と述べた。

 宝前法要は、昨年12月14日の午前と午後に1回ずつ営まれ、計76人が参加。舎利礼文の写経にも取り組んだ。

 広島薬師寺会は約600人の会員がおり、3カ月に1回、同センターで薬師寺と共催して法話会を開いている。安芸高田市の今村京子さん(73)は「世の中が皆、笑顔で暮らせるよう願い写経をした。私たちは自分だけで生きていない。教えに触れながら、見守ってくださるご先祖や仏様に感謝して過ごしたい」と話していた。

「唯識」 自己中心の姿省みる

 薬師寺の村上太胤管主に現代人の心のありようや、仏教が社会で果たすべき役割を聞いた。

  ―宗教者の立場から今の社会をどうみますか。
 テレビやインターネットなどで情報があふれる社会になり、見過ぎ、知り過ぎて人の心が流され荒立っている。政治や経済が優先し、宗教が社会からなくなってきていると感じる。ご先祖への感謝の心を持つことで豊かな心は育める。若い時に心づくりをしたいが、昔のように祖父母と同居せず、仏壇もないから、手を合わせる心や宗教心が育ちづらい。

  ―法相宗で大切にしてきた唯識の教えは、現代人の心にどう役立てていけますか。
 偏り、こだわり、捉われは人間がどうしても持つ。いろんな情報を見聞きし、腹立つことがあれば欲も出る。そうした自己中心の姿を省みて、「こだわっているな、捉われているな」と素直に思えるようになることが、唯識の教え。手を合わせ、仏様やご先祖様に感謝していると、自然と気付きが出てくる。命への感謝の心も育ってくるのではないか。

  ―人間の欲は消すことができるのでしょうか。
 欲はなくならないから少なくするしかない。物や金を欲するのでなく、大欲を持つといい。それが心の欲。自分優先でなく、みんなに幸せになってほしいと願う心だ。大欲を持つと小さな欲は抑えられる。

  ―被爆地の広島が発信し続けてきている世界平和の実現にも、そうした心の持ちようは大切な気がします。
 大欲の究極が世界平和だろう。原爆ドームの前に立つと、自然と犠牲者を思い平和を祈る。亡くなった人を思う時に人は誰もが謙虚な気持ちになれる。過去を忘れないことが大切。そうした意味で、8月6日にみんなで思いを一つにするセレモニーは意義深い。薬師寺でも、この日の8時15分には毎年、鐘を突き平和を祈る。私自身も、広島に来ると原爆ドームを必ず訪ねる。自分の私利私欲の先にあるのが戦争や内乱。すべては人間の心がなす。こうした時代だからこそ、仏法の種まきが必要だと感じる。

むらかみ・たいいん
 1947年、岐阜県各務原市出身。56年に薬師寺に入山し得度。龍谷大卒。薬師寺の執事長や副住職を務め、昨年8月に管主に就いた。

(2017年1月23日朝刊掲載)

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