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社説・コラム

社説 退位の論点整理 国民に開かれた熟議を

 天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議はきのう、議論の中間まとめとなる論点整理を公表した。本来は陛下の負担軽減がテーマである。国事行為の在り方や摂政の是非なども含めて幅広い議論となったが、事実上退位を大前提とする方法論が焦点になったのは間違いない。

 内容を見る限り、「恒久制度化」ではなく「一代限り」が望ましいとの立場をにじませ、政府側の意向を後押ししたように思える。安倍晋三首相は「論点整理の公表で理解が一層深まると期待している」と述べたが、「結論ありき」と受け止めた国民も少なくないだろう。

 論点整理は結論を出したわけではない。ただ「恒久化」のための課題を23件挙げたのに対し「一代限り」の課題は3件にとどまった。退位の要件を定めるのは時代とともに価値観も変わり難しい。退位は一代に限り、国会でその都度、国民の意思を反映して審議を尽くした方がいい―という主張が読み取れる。

 一つの考え方には違いない。しかし論点整理という言葉の通りならば、本格的な議論は始まったばかりだということを、私たち国民は頭に置くべきだ。

 憲法では天皇の地位について主権者である「国民の総意」に基づくと定めている。国民の代表による国会での議論が有識者会議の議論の流れに必ずしも縛られる必要はないはずだ。

 国会では衆参両院の正副議長が論点整理を踏まえ、2月中旬以降に各党の意見集約を進め、3月上中旬に国会としての見解をまとめるという。政府は4月下旬にも通常国会に一代限定の特別法案を提出し、会期中に成立させたい意向のようだが、スケジュールありきでは困る。

 確かに、陛下の退位は喫緊の課題で、期限を設けた運び方はやむを得ない面もある。だからといって結論ありきの議論でいいだろうか。「退位は2018年12月23日、改元は19年元日」という政府案が伝えられるが、国会の議論を置き去りにして政権主導で既成事実化していくとすれば本末転倒になりかねない。

 国会の議論の焦点は退位を定める法の形式に移る。退位の恒久制度化のために皇室典範を改正するのか、それとも一代限りの退位に向け、典範から独立した特別法を作るのか―。

 政府が検討の軸に据える特別法制定には、異論もある。民進党の野田佳彦幹事長はきのうの衆院本会議の代表質問で、皇室典範改正による恒久制度化をあらためて提唱した。その場しのぎではなく、安定した退位のルールを整えるべきだと訴える。特別法は、時の政権の恣意(しい)的運用のリスクをはらむことへの警戒感もあるようだ。論点整理では特別法の根拠規定を皇室典範の付則とすることにも言及したが、慎重な検討が必要だ。

 さらには憲法との整合性も考えたい。憲法は「皇位は皇室典範の定めるところにより継承する」と定め、特別法は違憲の疑いがあるとの指摘もある。

 一ついえるのは、開かれた議論を丁寧に重ねていくことでしか「国民の総意」は形成されないということだ。各党の意見集約は非公開の方針というが、全てのプロセスを公開し、国民の声に耳を澄ますべきだ。退位の議論は「静かな環境で」と強調されるが、政争の具にしないことと議論しないこととは違う。

(2017年1月24日朝刊掲載)

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